一切の労働を禁じる「安息日」の影響力

そして、ディアスポラのユダヤ人を結束させる上でもう一つ重要な役割を果たしたのが、「安息日」を守ることでした。創世記には、神は世界創造の7日目に休んだと記されています。それをもとに、ユダヤ教では、金曜日の日没から土曜日の日没までを安息日とし、この日には労働が禁じられます。

問題はこの労働の範囲です。同じユダヤ人と言っても、現代では、正統派と世俗派では考え方がまるで違うわけです。世俗派は、安息日のことを気にしませんが、正統派となれば、労働のなかにあらゆることが含まれると考えます。

車の運転も労働ですし、エレベーターのボタンを押すことも労働です。食事を作るために火をつけることも同じです。スマホの使用も禁止です。

ですから、イスラエルには、「定時になると照明が消えるタイマー、作り置きの料理を一定温度に保つ電熱プレート、ボタンにふれなくとも各階で自動開閉するエレベーター」といった安息日グッズがあります(「神様がスマホを強制終了する ユダヤ教の『安息日』が得た現代の意義」『Globe+』、2018年11月9日)。

差別される一方で、アイデンティティを維持

重要なのは、ユダヤ教の安息日が、キリスト教やイスラム教とは異なることです。キリスト教は日曜日が、イスラム教は金曜日が安息日にあたります。つまり、ユダヤ教とはずれているわけです。

島田裕巳『宗教の地政学』(MdN新書)

しかも、ユダヤ人は安息日にはいっさいの労働をしないわけですから、キリスト教徒やイスラム教徒とは生活のリズムが合いません。一緒に仕事をしようとしても、安息日が違うので困った事態が生まれてきます。

これも、ユダヤ人が周囲の異邦人から隔絶した生活を送ることに結びつきました。それは、ユダヤ人を結束させることに結びつくと同時に、少数派であるがゆえに差別されたり、迫害されたりする原因にもなったのです。

割礼や安息日を守ることはユダヤ法によって規定されていて、ユダヤ人が周囲に同化せず、そのアイデンティティを守り通すことに役立ちました。その意義はとてつもなく重要です。

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