ユダヤ教とはどんな宗教なのか。宗教学者の島田裕巳さんは「ユダヤ教徒は長く迫害を受けてきたが、強く結束してほかの宗教に改宗する人は少なかった。その理由は、割礼と安息日という独特の習慣がユダヤ法で定められていたからだ」という――。
※本稿は、島田裕巳『宗教の地政学』(MdN新書)の一部を再編集したものです。
ユダヤ人と結婚したければ改宗するしかない
ユダヤ教の指導者は「ラビ」と呼ばれますが、ラビは俗人で、妻帯し、家庭を持ちます。その点で、キリスト教の聖職者、特にカトリックの神父や修道士とは性格がまったく異なります。
ユダヤ教の正統派では、男性は教えを学ぶ活動を中心とし、労働に勤しむことはないのですが、宣教活動を行うという方向には向かいません。
もちろん、ユダヤ人の条件の一つとして、ユダヤ教への改宗者であることが含まれており、他の宗教からユダヤ教に改宗することはできます。事実、改宗をした人たちはいます。
日本でも、以前は、結婚すると女性は夫の家に入るという感覚が強くありました。その際に、家の宗旨が実家と婚家で異なる場合には、婚家の宗旨に変わるということが一般的でした。これは改宗として考えられます。
ニューヨークなど、ユダヤ人が多く住んでいる地域では、ユダヤ人でない人間がユダヤ人と結婚しようとすると、ユダヤ人の親の方から強く反対を受けることが珍しくないようです。もし、それでも結婚しようとすれば、ユダヤ教に改宗するしかありません。
男性の生殖器の包皮を除去する「割礼」
しかし、その際に一つ大きな問題になってくることがあります。それは男性に限られるのですが、ユダヤ教徒ではなかった男性がユダヤ教に改宗しようとしたら、「割礼」を受けなければなりません。
割礼は、日本ではなじみのない習慣ですが、生殖器の包皮を除去するというものです。女性の場合にもクリトリスを切除する形での割礼が行われることがありますが、これはアフリカの一部に限られます。男性の割礼はかなり幅広く行われています。
イスラム教でも割礼の慣習がありますが、特にユダヤ教ではこれが重要な意味を持ってきました。