「日付を書き間違えた、ああ神よ」「私はこのペンが嫌いだ」

北アイルランドのヒルズボロ城を訪問した際にも、インク壺とペンのため新国王は再び不愉快な思いをさせられる。訪問者名簿に署名した際、チャールズ国王は「今日は9月12日か?」と尋ねた。その場にいたスタッフが「今日は13日です」と答えると、「ああ神よ、私は日付を間違えて書いてしまった」と嘆いた。

さらにペンのインクで手を汚したチャールズ国王は苛立ちながら椅子から立ち上がり「ああ神よ、私はこのペンが嫌いだ」とペンをカミラ王妃に手渡した。それでも感情の高ぶりを抑え切れず、「私はこの血まみれのものに耐えられない」「悪い時はいつもこうなんだ」と付け加え、神経質な一面を国民に印象付けた。

チャールズ国王には、皇太子妃になるおとぎ話を夢見た「世間知らずのお嬢様」のダイアナ元妃より、自分のすべてを受け入れてくれるカミラ王妃のような「姉さん女房」が必要だったのかもしれない。インクが漏れたペンを何も言わずに受け取ったカミラ王妃の姿がチャールズ国王の一面をうかがわせる。

バッキンガム宮殿からウェストミンスター・ホールまで葬送行進するチャールズ国王(2022年9月14日、ザ・マルで筆者撮影)

短気と口の悪さは豪放磊落だった父フィリップ殿下譲り

チャールズ国王の父フィリップ殿下(故人)も口の悪さでは有名だった。フォトグラファーに「f***ing早く写真を撮れ」とこぼしたり、外遊中に木に登って撮影しようとしたフォトグラファーが木から落ちると「首を折ればいいのに」と悪態をついたりした。英歌手エルトン・ジョンのパフォーマンス中に「マイクを切ってほしい」と口走ったこともある。

豪放磊落らいらくだったフィリップ殿下は、幼少期のチャールズ国王をスパルタ式で鍛えようと、名門イートン校ではなく、質実剛健をモットーにするスコットランドの寄宿学校に放り込んだ。自由を求めてヒトラーから逃れてきたドイツ系ユダヤ人が設立した学校で、フィリップ殿下も1期生の一人だった。実は、筆者の友人の父親はフィリップ殿下の級友だった。

繊細なチャールズ国王はやんちゃな級友に囲まれ、「寮の連中は不潔だ。一晩中スリッパを投げられたり、枕で殴られたり……文字通りの地獄だった」とぼやいている。フィリップ殿下とエリザベス女王は「冷たいシャワーと終わりのないラグビーがチャールズを変えることはなかった」とバンカラのスパルタ式がチャールズには合わなかったことを認めている。