イギリスの女王エリザベス2世が死去した。96歳だった。約70年という英国史上最長在位だったが、最後まで揺るぎない安定感をもち、英国民からの人気も高かった。国際教育評論家の村田学さんは「学校教育ではなく、家庭教師から帝王学を授けられたからこそ、子供たちとは違う安定感が生まれたのではないか」という――。
王室メンバーとともにバッキンガム宮殿のバルコニーで、エリザベス女王の在位70年を記念する式典を見守る女王(左から3人目)
写真=PA Images/時事通信フォト
王室メンバーとともにバッキンガム宮殿のバルコニーで、エリザベス女王の在位70年を記念する式典を見守る女王(左から3人目)

学校に通ったことがないエリザベス女王

英国王室は9月8日、エリザベス女王の崩御を発表しました。96歳でした。在位は約70年で英国史上最長です。

エリザベス女王が即位したのは1952年の6月2日、25歳の時です(※1)

以来、東西冷戦のなかで起きたスエズ危機、EC加盟(のちのEU)、フォークランド紛争、ポンド危機、中国への香港返還、EU離脱、コロナ禍など――戦後の激動の歴史の中を、英国領主の君主として任務を全うしてきました。長男のチャールズ新国王の離婚とダイアナ元王太子妃の死、三男・アンドリュー王子のレイプ疑惑、孫のヘンリー王子の王室離脱など、家族のスキャンダルには頭を悩ませてきましたが、エリザベス女王自身は、抜群の安定感で国民の信頼と尊敬を集め、女王としての任務を全うしてきました。イギリスには「鉄の女」と呼ばれた故・マーガレット・サッチャー首相がいますが、エリザベス女王は「鉄の女」も超える鋼のメンタルを持っていると言えるのではないでしょうか。

この鋼のメンタル、抜群の安定感はどのように育まれたのでしょうか。

若くして即位したエリザベス女王でしたが、生まれた時から「女王になるべき」人生を歩んでいたわけではありませんでした。なぜなら、エリザベスの父ヨーク公(後のジョージ6世)には、兄であるエドワード8世がいたからです。しかし、エドワード8世は、王太子時代から交際のあった離婚歴のある米国人女性ウォリス・シンプソンとの結婚を望み、世論の強いバッシングにあいます。そのため、即位から1年も経たずに退位。父であるヨーク公がジョージ6世として、英国王に即位することとなりました。

そこからエリザベス女王は、次の王としての期待が寄せられるようになり、帝王学が開始されました。エリザベス女王は、父ジョージ6世の指示により、妹と共に家庭教師マリオン・クローフォードから学びました(※2)。なんと学校に通うことなく帝王学が授けられたのです。この家庭教師によって授けられた帝王学こそ、エリザベス女王の鋼のメンタルを育んだと筆者は考えています。

ちなみに父であるジョージ6世は、吃音に悩まされ、その様子は2010年に製作された映画『英国王のスピーチ』でも紹介されました。映画のキャッチコピーは、「英国史上、もっとも内気な王」。そのように揶揄されたジョージ6世ですが、エリザベス女王の安定の礎を築いた素晴らしい王であったと思います。

※1 https://www.royal.uk/coronation
※2 https://www.royal.uk/the-queens-early-life-and-education