国語に重点が置かれたカリキュラム

エリザベス女王が受けた帝王学とはどのようなものだったのでしょうか。

クローフォードが宮廷家庭教師として過ごした日々を回顧した『王女物語 エリザベスとマーガレット』(著者マリオン・クローフォード 訳者中村妙子 みすず書房)やイギリス政治外交史が専門の歴史学者・君塚直隆氏の『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』(中公新書)という本を参考に紐解いていきたいと思います。

図表1の時間割は、『王女物語 エリザベスとマーガレット』より筆者が作成したものです。10歳にもならない子どもの頃のものですが、想像以上にぎっしりと詰め込まれています。時間割には、未来の国王として身に付けるべき帝王学が集約されています。

眺めてみてわかるのは、文系に重きが置かれているということです。「算数」は入っていますが、自然科学、物理、化学などは学んでいません。

「文法」「書道、作文」「文学」「詩」など、読み書きをしっかり学ぶ内容になっています。国王として国民の心をひとつにまとめていくために、言語能力に重きが置かれていることがわかります。法体系を正しく理解するためにも言語能力は重要です。

「歴史」「地理」は、国王として国の成り立ちを知るために不可欠な科目です。これらを学ぶことで、英国王室の立ち位置を知り、自分を見つめるとともに未来への見通しが立てられるようになったことでしょう。「聖書」も、国王は英国国教会の最高権威者を兼ねるため必須科目です。

教養と心の安定を保つための芸術科目

午後を中心に「絵画」や「音楽」「歌唱」「乗馬」などの科目が入っているのも印象的です。国王として身に着けるべき教養であると同時に、生涯にわたって楽しめる趣味を持つためではないかと感じます。国王は孤独です。芸術を楽しんだり、乗馬のように動物と触れ合いながら運動もできる趣味を持つことで、精神の安定を図ることも考えられたのではないでしょうか。

ほかにも午後には年長者の王侯貴族と散歩やお茶をしながら交流する時間が取られています。ここで社交を学び、女王としてのふるまいを身に付けていきました。

また、この時間割りには入っていませんが、下士官としての軍務やガールスカウトなどで一般市民と触れ合いの機会も持たれていました。女王として、国民の生活や気持ちを知る機会もしっかり設けられていました。