強制労働が指摘される中国新疆ウイグル自治区をめぐっては、新疆綿などウイグル産品の輸入を原則禁止する法律が米国で成立し、日本企業も対応に追われている。

国家のために個人情報や先端技術が利用される恐れ

米中の貿易摩擦激化の背景には、先端技術で中国の競争力が高まっていることへの警戒感や、中国側への情報流出の懸念もある。

中国は2017年に施行した国家情報法で「いかなる組織、個人も国の情報活動に協力しなければならない」と明記。国家の安全強化のため、国内外の個人や企業の情報収集を強化しており、日本の個人情報流出も懸念されている。

中国はAIなど先端技術の開発に力を入れているが、こうした先端技術を担う企業は軍と関わりがあるとみられ、軍事転用やスパイ活動に使われる可能性も指摘されている。

2021年10月に発足した岸田文雄政権も経済安保を重視。初めて経済安保担当相を設置し、「サプライチェーンの強化」「基幹インフラの安全確保」「先端技術開発での官民協力」「軍事技術に関わる特許の非公開」の4分野を柱とする経済安全保障推進法が成立した。

電力会社や携帯電話事業者などが基幹インフラを新たに導入する際、安全保障上の脅威となりうる国の製品が含まれていないか、国が事前審査する制度などが盛り込まれている。

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米中関係に詳しい東京大の佐橋亮准教授(国際政治)は「先端技術レベルが米国に迫る中国が軍民融合を掲げる中、経済が政治状況に左右される時代は当面続くでしょう」と話し、こう指摘する。「事業を萎縮せず展開するために、企業にとっては規制の枠組みの把握など経済安保のインテリジェンス(情報収集・分析)強化が必要になっています」

国有企業を通じて世界の1万3000社に影響力を持つ

世界には多数の「株主」がいる。では、その中で最大の影響力を持つのは誰なのだろうか。株主支配の分析というユニークな研究をしている国立情報学研究所の水野貴之准教授(計算社会科学)を訪ね、現状を聞いてみた。

「売り上げベースで見た時、単一の株主として最大の影響力を持っているのは中国政府です。その影響力は年々増しています」。水野氏はそう断言した。

国立情報学研究所は、情報学を専門とする国内唯一の学術総合研究所だ。ビッグデータなどの解析を専門とする研究者が多く所属し、大学院生を受け入れる教育機関の機能も担っている。

水野氏が中国政府の株式による間接的企業支配の研究を始めたのは2018年。企業は投資家から資金を集めるため、自社の株主の状況を細かく公開する必要があり、多くのデータがそろっている。しかし公開情報は膨大だ。人力ですべてを分析するのは不可能に近い。そこでAIを使った分析を試みた。