中国政府が影響力を持つ企業が各国で増えている。国有企業などを通じて「隠れ株主」となり、実質的な企業の支配者になる手法で、すでに中国は「世界一の大株主」となっている。毎日新聞取材班の書籍『オシント新時代 ルポ・情報戦争』(毎日新聞出版)からお届けする――。(第2回)
上海陸家嘴市民風景の中国国家フラグ
写真=iStock.com/SaidMammad
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「隠れ株主」として世界中の企業を支配する中国政府

その勉強会は2021年12月中旬、オンラインで開催された。タイトルは「日本企業が捉えておくべきチャイナリスク」。参加したある中堅商社の輸出管理部門に勤める男性はイベント終了後、筆者(松岡大地)につぶやいた。

「米中の対立状況、そして法規制は刻一刻と変わる。情報収集をしないとビジネスが止まりかねない。チャイナリスクは死活問題なのです」

男性が勤める商社は、食料品やハイテク部品などあらゆる商品を貿易業務で扱う。覇権争いを繰り広げる米国と中国の貿易摩擦をめぐり、次々と出される新たな規制に対して、社内のチェック体制や危機意識は十分か――。そんな問題意識から勉強会に参加したと明かした。

勉強会を主催したのはIT企業「FRONTEO」(フロンテオ、東京都港区)。国内外約3億社の財務情報や広報文などの公開情報をAIで解析するシステムを開発し、サプライチェーン(供給網)に潜むリスクを分析する。

2次取引先の全容把握すら難しいとされる中、同社は10次取引先以降も「可視化」するとうたう。米中対立が激化し、双方による制裁と報復の応酬が加速する中、事業リスクに神経をとがらせる企業のニーズを見込む。勉強会には約100社が参加した。

このシステムで、企業を実質的に支配する株主の解析も可能になった。念頭にあるのは中国の存在だ。

一見、中国政府と関わりのないように見えても、株主をたどると、国有企業などを通じて「隠れ株主」となった中国政府が影響力を持つ企業が増えており、システムは「隠れ株主」の存在をあぶり出す。

日本企業は60社に増加

中国は世界第2位の経済大国の巨大マーケットだが、近年は政府が民間企業のデータ管理を強めており、政治リスクは常につきまとう。

フロンテオの調べでは、中国政府による実質的な株式の間接保有の比率が50%を超える日本企業は2016年は39社だったが、2021年には60社に増加。中国国内の企業では同時期に6588社から6万3739社と10倍になり、米国でも225社から703社に急増した。さらに英国でも164社から431社、オーストラリアも311社から538社に増えており、世界的に同じような傾向が見て取れる。