フロンテオの本社はJR品川駅から徒歩約15分、東京港にほど近い場所にある。筆者も2021年11月に同社を訪れた際、「隠れ株主」のシステムを実際にスクリーンを使って見せてもらった。

日本の路上で通勤するビジネスマンのぼやけたグループ
写真=iStock.com/AzmanJaka
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システムでは、あるノルウェーの化学メーカーを例に、株主の支配状況を調べた。化学メーカーの直接の主な株主を見ると、ノルウェーや英国などの企業が多く、スクリーン上に映し出されたノルウェーなどの地図には持ち株比率が高いことを示す赤色が示された。

これは特に不思議ではない。しかし間接的な株主までたどると、途端に中国の地図が赤くなった。こうして実質的な企業の支配者としては、一見関係ないように思える中国政府の存在が浮かび上がった。

表からは見えづらい中国リスク

実際、企業の幹部たちは中国リスクをどう感じているのか。その本音を聞こうと取材先を探していた時、勉強会に参加した大手物流会社の幹部が、ある経験を打ち明けた。

約10年前、中国事業を拡大するため、その大手物流会社は中国の航空貨物会社の買収を検討した。航空貨物会社の創業者は中国政府との近しい関係がささやかれていた人物だった。「買収後、自社の情報が中国政府に流れることは避けたい」と考え、世界的にも有名な調査会社に周辺調査を依頼したが、有益な情報は得られなかった。「情報が全く出てこないことが逆におかしい」と考え、最終的には買収を見送ったという。

「企業買収においては、表からは見えづらいリスクをどう見極めるかが重要」。フロンテオが主催した今回のような勉強会の意義について、この幹部はそう強調した。

フロンテオの守本正宏社長は、防衛大卒業後に海上自衛隊に勤務した元自衛官。IT企業の創業者としては異色のキャリアだ。AIを用いた法務分野の支援事業を得意とし、大手電機メーカー東芝と経済産業省が2020年、一部の株主に対して株主総会の議決権を行使しないように不当に迫ったとされる報告書の作成などをサポートしてきた。この時には約78万件に及ぶ膨大なメールなどから重要な資料をAIで抽出し、作成を支援した。

日本企業に降りかかる米中対立の火の粉

そんな中、2019年頃から米中の貿易摩擦が激化。経済安全保障と地政学リスク分析の重要性の高まりを受け、2020年8月、公開情報を使って企業を支援するビジネス・オシントの領域の研究を開始した。2021年10月からは新たに開発したAIエンジンを用いて実際にサービスの提供も始めている。

自衛隊時代も戦略を立てる上での情報の大切さは教わってきた守本氏。「世界情勢が複雑になる中、人力でリスクをすべて洗い出すのは難しくなっている。テクノロジーを使った分析は今後、不可避になる」と話す。

「新冷戦」とも呼ばれる米中対立の火の粉は日本企業にも降りかかっている。

2020年には中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に対し、米国の技術を使った半導体の輸出規制が強化された。これを受け、半導体大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)はファーウェイ向け出荷を停止した。