分析対象は2016年の世界の4900万社と2000万人の株主データだ。

その結果、中国政府が国有企業を通じて世界の1万3000社に対して間接的に影響力を持ち、これらの企業の合計は売上高ベースで全体の1.4%に当たる7兆3900億ドルに及んでいたことがわかった。

たとえ間接的ではあっても、中国政府が意思決定に関わる企業の数は確実に増えている。

ターゲットになった香港企業

取材中、水野氏が研究結果をまとめたパワーポイントを示して説明する中で、特に目を引いたのは香港企業に対する影響力だ。

売り上げベースで見た時、中国政府は国有企業を通じて、間接的に香港全体で約4分の1の企業に影響力を持っているというのだ。インフラ関連では全体の6割、採掘業にいたっては9割以上に及んでいた。インフラ関連など国の安全保障に直結しやすい分野に投資が集中しているように見える。

香港は1997年に英国から返還された都市だ。返還後も香港の憲法にあたる香港基本法では長年、「1国2制度」に基づく高度な自治が保障されてきた。香港は中国本土に比べ金融面での規制も少なく、多くの外資系企業が投資をしたため、アジアを代表する金融センターとして発展した。

世界銀行によると返還時、人口約650万人だった香港の域内総生産(GDP)は、約12億人の中国本土の約18%相当あった。香港は世界の投資を呼び込む「金の卵」だった。

だが中国本土の経済成長に伴い、2021年の割合は2%に過ぎず、中国経済の中で埋没し始めている。そんな中、中国政府は香港に対する統制を強めた。2019年、香港政府は、香港から刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せる「逃亡犯条例」改正を進めようとした。

一帯一路構想の重要拠点

反対する市民のデモが激化し、主催者発表で200万人の市民が参加するデモもあった。

香港民主抗議
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改正案は撤回されたが、2020年に中国政府が反政府的な言動を取り締まる香港国家安全維持法を制定すると、逮捕される市民が相次いだ。これまで香港が享受してきた市民の自由や権利は急速に失われている。

一方、中国政府が掲げる巨大経済構想「一帯一路」では、香港は重要な位置を占めている。

一帯一路は2013年、習近平国家主席によって提唱された構想で、歴史上の東西交易ルート「シルクロード」にちなみ、中国から中央アジアを経由して欧州に至る陸路の「シルクロード経済ベルト」、南シナ海やインド洋を経由する「21世紀海上シルクロード」で構成される。沿線国を中心に道路や鉄道、発電所などのインフラを整備し、貿易の自由化、人的交流も促進する計画だ。

中国は経済成長や国民の生活水準の向上で、エネルギーの需要が増加し、安全保障の観点からも、中央アジアや南シナ海でのエネルギー資源の輸入ルートや供給網の確立が重要となっている。

香港の「首根っこ」をつかむ

中国は沿線で人、物、金を注ぎ続けることで、新たな経済圏を作り、世界の勢力図を塗り替えようとしている。