SNSで知り合った人に恋愛感情を抱かせ、金をだまし取る「ロマンス詐欺」。詐欺師たちを懲らしめようと、公開情報から詐欺師の正体を割り出す「特定班」と呼ばれる人たちがいる。毎日新聞取材班の『オシント新時代 ルポ・情報戦争』(毎日新聞出版)から、「特定班」の手法をお届けする――。(第3回)
夜のビジネスに不安を感じる女性のイメージ
写真=iStock.com/kazuma seki
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ロマンス詐欺での失恋を機に「特定班」になった女性

クリスマスイルミネーションが街を彩る2021年12月9日。その女性は、待ち合わせたJR茅ケ崎駅(神奈川県茅ヶ崎市)前のカフェに現れた。真崎久美子さん(仮名)。筆者(木許はるみ)を見つけると、マスク越しに目元を微笑ませた。

真崎さんはスマートフォンの画面を開き、若い男女の写真を順に見せた。「本人が見つかるまでは消さずに残しています」。写真は、真崎さんが「特定」を試みる人物だ。

スマホには人気キャラクター「ピカチュウ」がデコレーションされている。明るい声で説明する真崎さんは、「オシント」という硬派な言葉とは対照的な印象だ。

架空の外国人になりすまし、SNSで知り合った人に恋愛感情を抱かせ、金をだまし取る結婚詐欺「ロマンス詐欺」。詐欺師たちはSNSに投稿されたハンサムな男性や若い女性の写真を無断転載した偽アカウント(偽アカ)でターゲットに接触する。

真崎さんは、SNSに公開されている写真などを調べ上げて人物を特定し、偽アカであることを被害者に伝えている。人は彼女を「特定班」と呼ぶ。

真崎さん自身、ロマンス詐欺での失恋を機に「特定班」になった。スポーツジムでインストラクターとして勤務する傍ら、空き時間を疑惑の顔写真や、背景に映り込んだ景色などの分析に費やしてきた。公開情報を基に事実に迫る、いわば市民版「オシント」だ。

相談件数は2年間で約40倍に急増

国民生活センターによれば、2021年度のロマンス投資詐欺の相談件数は192件に上り、2年間で約40倍に急増した。

コロナ禍の外出自粛の影響で、ネットでの出会いを求める人が増え、被害に拍車を掛けた。中には数千万円をだまし取られたケースもある。しかし、詐欺師の実態が見えず、「捜査は難しく、なかなか被害が回復されない」(国民生活センター)という。