真崎さんは、このアカウントの運営主を特定し、報道機関に情報提供した。すると、提供した情報を基にテレビ局が運営主の女性を直撃。女性から「被害者に返金する」という言質を引き出した。

真崎さんはこれらのアカウントとDMで連絡を取り、振込先になっていた女性の名前を入手。女性がプライベートで使っているアカウントを探し出し、そのフォロワーから情報提供を募った。結果、女性の住所や常連となっている店が判明した。

しかし、被害者と連名で警察に情報提供しても「取り合ってもらえなかった」という。泣き寝入りしてしまうのは、ロマンス詐欺の被害者と共通していた。「今の特定作業も、あの時と同じ感覚かもしれない」。取材の最後、真崎さんは懐かしそうに話した。

詐欺師とハンターたちの攻防は、オープンソースの光と影を象徴しているようだった。ネット上の公開情報はいくらでも悪用されてしまう。その一方で、それを見抜くのもまた公開情報だ。真崎さんのような一市民もオシントで重要な役割を果たしている。

もう一人の特定班…元彼に現金50万円を貸した女性からの依頼

ロマンス詐欺の防止に取り組む真崎さんに続き、ネット上の公開情報を使った「市民オシント」を紹介する。筆者(村上正)は2021年末、「特定屋」「特定班」などと名乗るアカウントの持ち主にメッセージを送り、取材を試みた。

見ず知らずの人たちの個人情報を明らかにすることに、後ろめたさもあるのだろう。40件近くのアカウントにメッセージを送ったが、返信をくれたのは数件だった。そのうちの一人が電話取材に応じ、「特定」の手法を語ってくれた。

東京都内でウェブ関連の仕事をする大和さん(仮名)。著名人がSNSに投稿した写真から撮影場所を割り出し、自分のSNSで明かしていた。「仕事が行き詰まった時の暇つぶしでやっていたら、特定を依頼するメッセージが届くようになったのです」

その一つが、2021年6月頃に届いた北信越地方に住むという女性からだった。

「お金を貸していた元彼に逃げられました」。女性は元彼に現金50万円を貸したが、元彼と連絡が取れなくなったという。

女性が特定するための材料として大和さんに提供したのが、元彼のツイッターの匿名アカウントだった。携帯電話をこっそりのぞき見た時に確認していたという。

電話でカフェのテキストメッセージに座っている女性
写真=iStock.com/Vera_Petrunina
※写真はイメージです

そのツイッターには、複数枚の写真がアップされ、最近になって引っ越した様子がうかがえる投稿が並んでいた。

「これなら探せるかもしれない」。大和さんは直感的にそう思い、依頼を引き受けた。

「自分は『正義の案件』しかやらない」

大和さんが初めに注目したのは、全国チェーンの喫茶店の外観が写った写真だった。その喫茶店は全国で100店以上を展開する。「あくまでも暇つぶしの感覚」で仕事の合間に各店舗の外観をネットで調べていった。3カ月経った頃、写真とそっくりの都内の店舗を見つけた。