次にもう一枚の写真を検索……。骨の折れる作業だ。私の目の前で慣れた手つきでスマホを操作し、すんなりと特定してみせた真崎さんの作業は、膨大な時間と固い意思に支えられていたことを身に染みて感じた。

人事部
写真=iStock.com/portishead1
※写真はイメージです

真崎さんが「特定」を始めたのは2021年1月。米国在住の韓国籍エンジニアを名乗る男性から日本語でインスタグラムのダイレクトメッセージ(DM)が届いた。

「(あなたのアカウントを見て)気に入りました」。男性とのやりとりは朝から晩まで。夢中になった。「彼」の来日に備え、真崎さんは目の下のクマや額のしわを取るプチ整形も予約した。それほど本気だった。

約20人の「同志」とつながった

しかし、3週間が経った頃、「プレゼントを贈りたい」と伝えられた。そして「国際郵便で送るためには1000ドルの手数料がかかるので振り込んでほしい」と要求され、不信感が生まれた。

「顔写真を画像検索してみて」。ネット上の知人のアドバイス通りに検索すると、顔写真の人物は韓国人ユーチューバーで、「米国在住の韓国籍エンジニア」はうそだとわかった。検索開始からたった10分。体の力が抜けて、熱が冷めた。この日から「特定班」になった。

「同じような被害に遭わないでほしい」。その一心で特定班としての活動を続けてきた。

SNSで詐欺師の手口を紹介すると、続々と相談が寄せられた。「この人探せますか」。連絡を取り合う仲間もできた。数人で「チームロマンスハンターズ」を結成。メンバーは主婦や看護学生など立場はさまざまだ。

協力の輪は海外にも広がり、中国や韓国などアジア圏を中心に約20人の「同志」とつながった。それぞれが特定に成功した画像をSNSで公開しているため、疑惑の人物として追っていた写真を、同志の投稿から見つけることもある。まさに「偽アカのデータベース」だ。

顔写真を悪用された本人のアカウントも紹介して注意喚起する。あるメンバーは本人の許可を得て、韓国籍のフィットネスモデルのファンサイトを作成してあげた。「彼が有名になれば詐欺に悪用されることはないだろう」。そんな思いからだ。

反響は大きく、こんなメッセージが10通以上も届いた。「この人(の顔写真)に私もだまされました」。やはり、韓国籍のフィットネスモデルの顔写真は、ロマンス詐欺に悪用されていたのだ。

警察は取り合わず、被害者は泣き寝入りを強いられた

真崎さんは、なぜここまで特定に熱を注げるのか。知りたくて取材の最後に聞くと、2016年の「原体験」を教えてくれた。

入手困難なチケットの転売を口実とした「チケット詐欺」。当時、ツイッターで「チケットを譲る」とうたった複数のアカウントが存在していた。チケットを求める人に金を振り込ませるが、チケットは実在しない。被害者たちがツイッターで実情を訴えていた。