商品の背景にある空気感をどう伝えるか
食料品から目を転じて衣料品の売上を見てみる。2022年2月期、衣料品全体の売上は1613億円。前年比15.1%増だが、絶対額は食料品が上回っている。2017年2月期に比べると衣料品は27.1%減で、今やデパ地下の売上が百貨店の経営を下支えしているのは間違いない。
「正直、生鮮品の利幅は大きくないです。でもだからといって、生鮮品はいらないとはならない。『百貨』を扱うのが百貨店ですから。一般野菜が価格勝負なのはわかっていますが、アスパラや筍、松茸はどうしますか? そこの購入を促したい。たとえば松坂牛ですき焼きをする時、割下もワンランク上のものを使いたくなりますよね。あともう一歩、普通のネギではなくて九条ネギを使おうとなるかもしれない。ハレの日の野菜、野菜の非日常化です。
オンラインで買い物するとき、商品の説明文をスクロールしてわかった気になるけれど、さほど感動はしない。それよりも人は、この商品がどういった空気感、景色の中でつくられたかに心が動かされると思うんです。それをどう表現し、どう伝えるか。これは生鮮だけでなく百貨店全体が問われていることだと思います」
新規顧客を獲得するポイントは果物
とはいえ、アスパラや筍や松茸にこだわり、ワンランク上の商品を買い求めることができるのは富裕層だけではないのか。
「もちろん食へのこだわりは、ある程度の所得があってこそのものです。よく百貨店は次世代、つまり30~40代を取り込めていないと言われますが、30代でも年収が1000万円を超える人が増えています。やみくもに若い世代を狙うのでなく、金銭的に余裕のある若者をしっかり顧客に取り込んでいく。スイーツを買いに来る20代に、松坂牛と九条ネギを買ってくださいという売り方はマッチしないですからね」
新規の富裕層獲得に石渡さんが期待するのは、果物だという。生産者がブランド化を志向していて、糖度や重量、色付きなどによるランク付けもはっきりしている。「良→優→秀→青秀→赤秀→特秀」という順番で等級が上がり、秀以上は「高級品」として高値で販売される。
「大粒揃いで高糖度の高価なシャインマスカットを食べたいというお客さまは確実にいます。秀以上をしっかり取り扱い、その根拠を説明し、付加価値を実感してもらう。高島屋のある店舗では通路の左右で野菜と果物を並べて、練り歩けるようにしています。スーパーのように献立を決めて買う『目的買い』でなく、『ついで買い』が多い百貨店だからこその工夫です」