安心感の積み重ねで売り場をブランド化

石渡さんによると、サン・フレッシュや京都八百一がテナントに入っている高島屋店舗の野菜売り場では、バイヤーが自ら店頭に立って接客している。彼らとは仕入れの内容や値段のことより、売り方の話をするそうだ。どこに何の野菜を陳列し、客によってどのように話し方を変えるか。最終的には現場のチーフと話す。「標準化というより温度感。それを合わせていくのが重要だと思います」

高島屋新宿店の野菜売り場
写真提供=高島屋
高島屋新宿店の野菜売り場。バイヤーが直接接客に当たっている

生鮮品の担当になって8年。大田市場への発注はいまだにFAXという世界。「ようやくですね。テナントのみなさんと対等に話せるようになってきました」。サン・フレッシュや京都八百一は高島屋独占ではなく、同社のグループ会社が他の百貨店にも出店している。スーパーとも他の百貨店とも、差別化は簡単ではない。

「結局、『ここに来るといいよね』という安心感の積み重ねによって、売り場をブランド化していくことに尽きるんです」

スイーツや総菜は「リアル」でも売れている

高島屋の2022年2月期決算によれば、食料品の売上は2059億円(対前年比7.6%増)。うち生鮮は350億円(同2.6%減)。2017年2月期と比べると、食料品全体は4.2%減、生鮮は13.2%減。コロナを経て回復基調の食料品で、生鮮は出遅れている。

「生鮮が伸ばせていないのは、いろいろな背景があります。女性が社会進出して共働き家庭が増え、料理にかける時間は減っている。ECサイトでの販売形態もいろいろ増えて、それぞれ伸びている。その中で百貨店が生鮮の売上を保つのは、とても大変です。同時に百貨店は昔からのビジネスのままだと指摘されれば、その通りとも思います」

と、神妙な石渡さん。2022年2月期、食料品の中で圧倒的に売上を伸ばしたのは菓子(590億円、対前年比15.3%増)。続いて総菜(590億円、対前年比10.2%増)。2017年2月期と比べても、菓子は0.7%増、総菜は3.1%増。コロナ禍を乗り越えた確かな回復と言ってもいいだろう。

「野菜や果物をオンラインで売ることも考えました。でも、一つには鮮度がどうしても落ちてしまう。もう一つは基本、単価が安い商品なので送料などの経費が価格に乗り、お客さまの負担になってしまう。この2点から勝負圏ではないと判断しました。そして今、菓子や総菜が非常に売れている。オンラインでも買えるものもあるのに、です。やはり百貨店の食料品売り場は、足を運ぶと心が豊かになる場を提供することが役割ではないかと思うんです」