農家の顔が見える「東京産直野菜」が好調
そしてもう一つ、石渡さんが力を入れているのが産直だ。自治体との連携で農家とつながる好循環ができつつある。例えば「湘南ゴールド」。神奈川県農業技術センターで育成、2003年に品種登録された柑橘で、県庁の橋渡しで毎年旬の時期に仕入れ、横浜店などで販売している。
新宿店では東京の各地で採れた野菜の産直に取り組んでいる。朝に収穫したものも開店までに搬入、販売する。東京野菜のブランド化を狙う東京都との連携だから、運送費などは都の予算で。週2回、実験的に開催しているが、完売する野菜も続々。他店にも広げたいという。
「好調なのは、見せ方もあると思います。農家さんの顔写真を貼るのは『道の駅』などでは当たり前ですが、市場から仕入れる百貨店ではできていなかった。『この農家の野菜はおいしいね』と言ってもらえるよう、産直を大事にしていきたいと思います」
新しい野菜をブランディングする喜び
最後に、野菜・果物を担当する「喜びと悲しみ」を尋ねてみた。悲しみからいきますね、と言って、石渡さんは農家を取り巻く環境の話をした。
「生産者が高齢化しているのに、国がどう動いているか見えない。法人化する農家も増えていますが、それだと一律化した作物しか出てこないのではないかと思います。10年後がとても心配です」
喜びの方はというと、「素材を扱う楽しさ」だという。
「お菓子の担当もしていましたが、パティシエが作り上げたケーキを売るのは、美術品を仕入れて売るのと同じです。野菜や果物は自分たちで見つけてブランディングできる面白さがある。高島屋のお客さまは、自分で調理する方。作ってくださる。だからこそおいしい、新しい商品を見つけて情報発信する。それしかないと思っています」