「デパ地下の野菜」は何が魅力なのか
料理好きの知り合いに「材料はどこで買うか」と尋ねると、「野菜は高島屋のデパ地下」と返ってくる率が高い。だいぶ前からそう思っていた。通信販売の広告でよく見る「個人の感想です」の類だが、コロナ禍で外食が減り、家で料理する機会も増えた昨今、深掘りしてみることにした。
話を聞いたのは、高島屋MD本部食料品部のバイヤー石渡眞佐之さん。野菜だけでなく「生鮮三品」の担当だという。精肉、野菜・果物、鮮魚。その中で野菜・果物が一番難しい、と石渡さん。
「お菓子や総菜の場合、入っているお店、扱う商品がブランドになっています。生鮮品でも、お肉なら例えば『人形町今半』がブランドになっていて、そこを目的にお客さんが来てくれます。しかしながら、魚と野菜はブランド化されにくいカテゴリーです。ただし魚は季節感があるし、鮮度や産地の違いでまだプレミアム感が出しやすい。その点、野菜はプレミアム感を出すのがとても難しい。そのことで、いつも悩んでいます」
値段ではスーパーと競争しない
難しさとどう向き合うのかという話の前に、まずは野菜・果物の仕入れの仕組みから。高島屋には主に有機野菜・果物を扱う「高島屋ファーム」もあるが、石渡さんはそこではなく「平場」の担当だ。といっても菓子などのバイヤーと違って、直接買い付けをするわけではない。
日本橋店は「京都八百一」(本社・京都市)、それ以外の関東各店舗は「サン・フレッシュ」(本社・千葉県柏市)という会社がテナントとして入っていて、買い付けは両社のバイヤーがする。「サン・フレッシュ」の仕入れ先は主に、東京都中央卸売市場のひとつである大田市場。京都八百一は京野菜を京都から運ぶが、それ以外はやはり大田市場が主な仕入れ先だ。
「大田市場で買うのは、スーパーマーケットも同じです。そうなれば店舗数の多いスーパーの仕入れ価格が安くなる。値段勝負では勝てません。キュウリや玉ネギといった一般野菜の場合、高品質なものを入れたとしても味の違いはさほど感じられません。これはデパ地下に野菜売り場は必要か、という問いにつながる話です」