ヨドバシカメラは梅田と秋葉原で大成功

9月1日、セブン&アイホールディングスが百貨店のそごう・西武を米ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却した。

西武池袋本店
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そごう・西武の売却をめぐっては、ヨドバシカメラに関する前豊島区長の発言や、大手百貨店としては61年ぶりになるストライキが西部池袋本店で決行されるなど、話題に事欠かなかった。しかし、結局は当初の予定通り、西武池袋本店にヨドバシカメラが出店することとなった。飛んだ茶番劇である。

茶番の始まりは、高野之夫前豊島区長(2023年2月死去)の発言だ。22年11月、セブン&アイHDは、そごう・西武をフォートレスへ売却すると発表。フォートレスはヨドバシホールディングスと組んでおり、売却後はそごう・西武の旗艦店である西武池袋本店の低層部に、ヨドバシカメラを出店することが既定路線。それに対して、前区長は記者会見で反対を表明した。「(ヨドバシカメラ出店は)西武池袋本店が展開する海外ブランド店の撤退をもたらし、育ててきた顧客や富裕層も離れ、今まで築き上げた“文化の街”の土壌を喪失させるのではないか」

西武池袋本店の低層部には、ルイ・ヴィトンなどの海外ブランド店が出店している。ルイ・ヴィトンをどかしてヨドバシカメラを入れると、池袋の品格が下がるというわけだ。

しかし、これは百貨店の現状をよく理解していない発言である。百貨店は、とっくの昔にアパレルでは食べていけない業態になっているのだ。

原因のひとつは、メルカリやネットオークションを中心としたリユース(中古品)市場の拡大だ。メルカリの利用者は、季節の変わり目などに使わなくなった服や鞄を出品する。ただし、出品すれば何でもいい値段がつくわけではない。売れるのは、購入して2〜3年後でも価値が落ちない高級ブランドの定番品である。ユニクロなどのファストファッションはもちろんダメで、中価格帯のブランドですら人気はない。

その結果、百貨店で売り場のボリュームゾーンである中価格帯のブランドが軒並み壊滅。頼みの綱である高級ブランドにも気になる動きが2つある。

まず消費者側から見ると、高級ブランドを百貨店よりもずっと安く買えるルートができた。それは、エニグモが運営する「BUYMA」である。これは、海外在住者が現地で仕入れたブランド品を日本向けに出品できるサービスだ。成約時にかかる手数料は、出品者が5.5〜7.7%、購入者が5.5%であり、運営が抜いているのは取引額の1割強だけということになる。一方、正規代理店は商品を仕入れ値の2倍や3倍に値付けして販売している。価格に敏感なユーザーが、高いブランド品ほど百貨店ではなくBUYMAで買うようになるのも納得だろう。

高級ブランド店側にも、百貨店離れの動きが顕在化している。たとえば銀座にいくと、百貨店内ではなく中央通りや晴海通り、そして最近では松屋通りやマロニエ通りに店を構えている高級ブランド店が多くなっている。

新宿にもその傾向がある。伊勢丹新宿店は、JRや私鉄の新宿駅から距離があり、5〜10分は歩く必要があるのだ。その移動時間は寸暇を惜しむ現代人にはあまりにも長い。時勢に即し、最近では駅から伊勢丹までの通りに沿って高級ブランドの路面店が出てきている。伊勢丹 新宿店は日本を代表する百貨店なので、今すぐに経営が傾くとは思えないが、高級ブランドの脱百貨店化が進んでいくことは間違いない。

百貨店は伊勢丹のような元呉服屋系と、西武などの私鉄系に分かれるが、私鉄系のビジネスモデル――ターミナル駅に百貨店を建てて沿線住民に利用してもらう――は限界を迎えている。