メリット・デメリットはどこにあるのか

「全数把握」とは、簡単に言えば、医療機関等が新型コロナウイルス感染症との診断を下した際に、当該感染者を行政機関にもれなく報告するということである。「全数把握」との言葉を見ると、日本全国で発生している新型コロナウイルス感染者を一人残らず炙り出して捕捉し集計することだと思ってしまいがちだが、そういう意味ではない。

コロナ禍以降、現在に至るまで医療現場で行われてきたこの「全数把握」を見直す、あるいは廃止する方向とした場合、それによっていかなるメリットが期待できるのか、一方でいかなるデメリットが生じうるのか、そしてその政策転換は私たちの生活に社会に、いかなる影響を及ぼし得るのか、本稿ではこれらの問題について論じてみたい。

まず「全数把握」を止めることによるメリットについて考えてみよう。言うまでもなく、医療現場の負担軽減がその最たるメリットだ。

現在、発熱外来を開設している医療機関では、新型コロナウイルス感染者を検査等で診断した後に、当該患者情報をHER-SYS(ハーシス)と呼ばれる「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム」に入力することになっている。これによって患者情報が行政機関に集約されるのだ。

20人だとしたら、15人分の報告が必要

そもそもこのシステムは、厚生労働省によれば「保健所等の業務負担軽減及び保健所・都道府県・医療機関等をはじめとした関係者間の情報共有・把握の迅速化を図るため」が目的であった。しかしこのシステムへの入力作業が、現在多くの医療機関の負担となっていると言われるのである。「全数把握」すなわち「全数報告」を止めれば、この作業にかかる医療機関の時間的、人的負担は軽減されるのだという。ではいったいどのくらいの負担軽減になるのだろうか。

それは医療機関の規模そして発熱外来の受け入れ人数にもよると言える。例えば私の勤務先では、先述したように慢性疾患の患者さんも数多く来院するため、発熱外来枠での受け入れ可能人数は多くても一日25人ほどだ。仮に20人とした場合、現在のように市中感染が爆発的に増えている状況下での当院における陽性率(検査人数に対する陽性者の割合)はほぼ70~80%だから、一日に15人分ほどの報告が必要となる。