3.医療機関に悪夢のような負担がのしかかる

欠勤や欠席で職場や学校に療養証明書(診断書)や(出勤・登校)許可書等の提出を求められた人、そして自宅療養が「みなし入院」として民間保険の入院給付金等の支払い対象になる人たちが、My HER-SYSでの証明書の代わりに、医療機関にこれらの証明を得るため殺到することは火を見るより明らかだ。これは医療現場にとってHER-SYS入力とは比較にならない悪夢のような負担となる。

もちろん感染しても公的に登録されていないのだから、職場や学校に「新型コロナウイルス感染症」で休んだことを黙っていれば証明書など不要だ。ゆえに“全数把握廃止後の未来”では、「感染の事実を職場や学校に正直に申告し、ゆっくり休む人」と「自覚症状はあるが、申告せずに症状が落ち着きしだい出勤(登校)する人」が、今以上に社会に入り混じることになるだろう。

東京駅前の交差点を渡る人々
写真=iStock.com/ooyoo
※写真はイメージです

そのような社会で、この感染力が異常に強い感染症を制御することができるだろうか。“数えなければ見えやしない”ということだろうか。そんな乱暴な議論で良いのだろうか。

「拡大抑止」と「感染者の保護」を放棄するのか

ちょっと落ち着いて考えてみてほしい。感染者が登録されるということには、いわゆる“隔離”を行うことで社会への感染拡大を防止するとの意味だけではなく、当事者およびその家族の経過観察やフォローアップ、隔離中の生活を行政が責任を持って保護するという、両方の意味が本来あるはずだ。つまり「全数把握を廃止する」ということは、感染拡大抑止と感染者保護、双方の責任を行政が放棄することにほかならないのだ。

現在の「全数把握は是か非か」の議論には、賛成派、反対派双方の議論からこのような視点が完全に抜け落ちており、私は強い違和感を覚えている。ぜひ速やかに国会を開いて与野党ともに早急かつ慎重に熟議することを望んでやまない。

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