約2時間におよぶ入力作業を省略できるが…

以前よりも入力項目が簡素化されたため1人分の入力時間は3~5分ほど、つまり15人分であれば入力作業だけで1時間程度は要することになる。入力作業は当院では事務長が一括して行っているが、その前段階で事務職員が入力項目の整理作業を行うため、その準備に要する時間も加味すれば、診療所全体としてはさらに1時間以上は、この報告作業に取られることとなる。

患者からの聞き取りをメモする医師
写真=iStock.com/Charday Penn
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もし「全数把握」が廃止となれば、その分の時間とマンパワーが節約できるため他の対応に余力を回すことは可能となる。それは大きなメリットだと言えよう。

しかしこの効率化によって、発熱外来で受け入れられる患者さんの数を増やせるかというと、それはまた別の問題だ。例えば医師1人で診療している規模の小さな個人の診療所など、入力作業を事務員ではなく医師(院長)本人が行っているところでは、その浮いた余力を受け入れ人数増に回せるかもしれないが、もともと入力作業に医師が関与していない医療機関では、「全数把握」を廃止にしたところで受け入れ人数増には直結しない。

1.支援物資や健康観察が受けられない

つまり「事務作業が削減される分、医療機関の負担が減って、断らざるを得なかった多くの患者さんを受け入れられるようになる」とのシナリオには、大きな疑問符が付いてしまうのだ。「全数把握」廃止による医療機関の負担軽減がどれだけ発熱者難民を減らすことにつながるのか、これは以下に検討するデメリットと比較して慎重に考量すべきであろう。

では「全数把握」を廃止することでいかなるデメリットがもたらされるか。わが国の感染状況の実態が分からなくなるとの問題はすでに多くの識者が指摘しているため、ここではその議論は割愛し、より私たちの生活に関わることを指摘したい。

最も大きな問題は、個々の感染者が登録されないことにある。現在、感染者の多くは入院できずに自宅療養を余儀なくされているが、それでもまったく放置されているわけではなく、支援物資の配給やLINEや電話を通じた健康観察といった行政による保護措置が多少はある。これらが一切なくなってしまうのだ。

ご存じの通り、新型コロナウイルス感染症は、現在の感染症法の位置づけでは、感染者は一定期間外出しないことによって感染拡大防止への協力要請に応じるよう努めなければならないとされている。いわゆる隔離の法的根拠はここにある。