2.「検査→隔離」のフローが形骸化していく
それが登録されずに行政から放置されることになってしまうわけだから、生き抜くためには外出して食材を買いに出ねばならなくなる。感染の事実は、診察室という密室の中で診断した医師と患者さん本人との間でしか共有されない情報であるから、黙っていれば他人には分からない。もちろん現状でも、感染者が黙って出歩けてしまうことに変わりはないが、今以上に感染拡大防止の努力義務は、個人の良心に委ねられることとなるだろう。
現在主流のBA.5は、もちろん重症化する人もいるが、2~3日ですっかり回復してしまう人も少なくない。人によっては1日も休めば職場復帰できてしまう。そのような「感染力がまだ残っている元気な感染者」が街場を出歩いても職場に行っても、行政としてはその人が感染者だと把握できなくなっている以上、感染拡大防止への協力要請はできないということになる。つまり隔離自体がその効力を失い形骸化してしまうことになるのだ。
さらに現状で「全数把握」が廃止されると、医療機関には新たな負担が加わってしまう可能性も指摘しておきたい。それは「診断書」や「検査証明書」等の作成・発行、交付の業務の急増だ。
厚労省は療養証明書の発行を勧めているが…
令和4年8月10日付で厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部より、事務連絡として「新型コロナウイルス感染症に係る医療機関・保健所からの証明書等の取得に対する配慮に関する要請について(協力依頼)」との文書が発出された。
この文書では、自治体を通じて地域の事業主団体または企業に対し、以下のように要請している。
現在、感染者との診断を受けHER-SYSを通じて登録された人には、その後、保健所からショートメールでMy HER-SYSにアクセスするよう案内が届く。これにログインすることで療養証明書が簡単に入手できるのだ。厚生労働省が事務連絡でこの活用を要請している一方で、もし「全数把握廃止」となれば、これがまったく活用できなくなってしまうことになる。