なぜ今、キリスト教右派が暗躍しているのか
宗教の政治化が懸念される理由は他にもある。宗教ナショナリズムの台頭だ。
キリスト教右派の中で最も右寄りで過激な教団のいくつかは、これまで当局に目をつけられないよう、隠れて活動していた。ところがトランプ氏当選に力を得て、その牙を剥き出したのである。
トランプ氏が煽動したと疑われている、2021年1月6日の議会襲撃事件では、「神の名の下にアメリカを奪還せよ」というスローガンが目を引いた。また「ユダヤ人や移民の手からアメリカを取り戻せ」と、過激な運動を続ける白人至上主義者グループも、キリスト教義を錦の御旗にしている。
キリスト教右派のナショナリズムは、あからさまに人種を差別し、女性やLGBTQの権利を否定している。暴力的な行為にも及び、民主主義そのものをも脅かしている。
その根底には、ますます多様化するアメリカ社会で、キリスト教徒とその多くを占める白人がこれまでの特権と地位を失うことへの恐れがある。移民や無宗教の増加に伴い、キリスト教徒の割合は、過去20年間で2割減っているのだ。
日本でも同じ構図が生まれている
変化を嫌うキリスト教右派の反発が、トランプ元大統領の利害と一致し、最高裁を動かすまでになった今、アメリカが半世紀かけて積み上げてきた人々の権利は、ガラガラと崩れようとしている。
こうして見ていくと、アメリカの民主主義を危機に陥れているのは、古い価値観と既得権益にしがみつく、宗教と保守政治の癒着といわざるを得ない。
そしてこのような動きは、今まさに日本でも起きているのではないだろうか。現在のアメリカと日本の政治にはかなりの共通点があるように思える。多くの国民のためにと掲げられた政策が、実は大きな影響力をもった過激派の主張を通すものになってはいないか。一人ひとりが自分の目で判断してほしい。