ウクライナが「戦力の逐次投入」しかできない理由

前回の記事でも述べましたが、私はこの戦争をアメリカによって「管理された戦争」と名付けました。ウクライナがロシアに勝てないのは、ウクライナのせいではありません。アメリカが本気で後押しをしないからです。

ゼレンスキー大統領が望むだけの種類と量とタイミングで兵器が供給されれば、ウクライナは勝てるでしょう。アメリカは今年2月の開戦以来、ウクライナに91億ドル(約1兆2000億円)の支援を行っています。しかしアメリカは、逐次投入しか行いません。

7月20日、アメリカのオースティン国防長官は、アメリカがウクライナに、4基のハイマース(高機動ロケット砲システム)と弾薬を追加提供すると明らかにしています。

これまでアメリカが提供していたうち4基はロシアに壊されてしまったため(ウクライナは否定)、その補充だと私は見ています。

1942年8月7日、D-デイにガダルカナルの砂浜を横切って上陸する米第一師団海兵隊(写真=U.S. Marine Corps/PD US Marines/Wikimedia Commons

戦力の逐次投入といえば、日本軍の得意技でした。ガダルカナル島へ数次に及ぶ補給を行い、結果として勝てなかった状況と、よく似ています。

ガダルカナル島は南太平洋のソロモン諸島にある島です。アメリカのハワイとオーストラリアを結ぶ線上にあり、この制空権を得ることで、連合国を分断できると考えて、飛行場の建設を進めていましたが、アメリカ軍はいち早く上陸して滑走路ができたばかりの飛行場を占領してしまうんです。それを奪還しようとして、1942年8月以降に行われたのがガダルカナル戦です。しかし、近代兵器を装備したアメリカ軍に対して、日本軍は3度にわたる伝統的な白兵突撃作戦を繰り返し、殲滅されてしまいました。

アメリカは米ロ戦争に発展することを恐れている

軍事上有効な作戦を考えるならば、ウクライナは、ロシア本土とクリミア半島の間のケルチ海峡にかかっている長さ18キロメートルのクリミア大橋を破壊するのが合理的です。ロシア軍の補給線は大混乱して、圧倒的な優勢に立てます。そのままクリミア半島へ攻め込んで、奪還することもできるでしょう。

ウクライナがそれをしないのは、アメリカが抑えているためです。ハイマースの供与についても、ロシア領土を攻撃しないという縛りがつけられています。その理由は、ロシアが警告を出しているからです。クリミア半島を含むロシアの領土に、アメリカが提供した兵器で攻撃されたら、アメリカを交戦国とみなし、直ちに徹底的な反撃をするという内容です。

この警告が効かなかった場合、ロシアは、シリアのクルド人地区にあるアメリカ軍基地を攻撃するでしょう。ここはシリア政府の了承を得ずに作られた基地なので、いわば非合法です。

そうなれば、クルド人勢力を敵視しているトルコのエルドアン大統領が大喜びします。結果として、NATO加盟国であるアメリカとトルコの間に、深刻な亀裂が入ります。それは、新たな分断の端緒となります。

アメリカは、この戦争がウクライナ国土の外へ広がり、米ロ戦争に発展することを恐れています。ウクライナへの支援も、この制約の下に行われています。アメリカによる「管理された戦争」の枠組みで戦っている限り、ウクライナは勝てないのです。