価値の体系だけで論じてしまう危うさ

日本の世論の危うさは、この戦争を価値の体系だけで論じがちなことです。報道や一部の政治家や有識者の発言を見ても、価値の体系のインフレーションを感じます。すなわち、ロシアは絶対的な悪。ウクライナは完全なる善。太平洋戦争の時と同じ危うさです。

一方で日本政府の立場は、価値の体系においては、西側の一員としてロシアを厳しく非難しています。「正義は必ず勝つ」という観点、被害者であるウクライナが勝たなくてはならないという立場に寄りすぎ、反対側の情報を遮断しがちです。力の体系に関しては、防衛装備移転三原則があるので自衛隊の武器を紛争地域であるウクライナに送ることができません。

実はアメリカ追随ではなく、独自路線を取っている日本

しかし利益の体系から見ると、立場が異なります。G7諸国で、ロシアの民間機に領空を解放しているのは日本だけです。石油と天然ガスの採掘プロジェクト「サハリン1」と「サハリン2」からも撤退していません。入漁料を払ってロシアの領海でサケ、マス漁をする仕組みも、従来通り維持しています。

帝国データバンクの7月26日の発表によると、〈米エール経営大学院の集計をもとに、各国の「ロシア事業撤退(Withdrawal)」の割合を分析したところ、全世界の主要企業約1300社のうち22%に当たる300社がロシア事業撤退を表明したことが分かった。〉

〈一方、日本企業の事業撤退割合は帝国データバンクの調査で3%、エール大の調査でも5%と、依然として先進主要7カ国中で最低レベルにある。〉

日本の対ロ政策が実はアメリカ追随ではなく、独自の路線を取っていることは評価していいと思います。

3つの体系の話は、経営者やビジネスパーソンの働き方に通じます。経営理念が中心になりすぎると、危うい。利益さえ上がれば何でもありという姿勢は、通用しない。自社の力を客観的に見ずに事業計画を拡大し過ぎると、大変なことになる。

ひとつの体系に引きずられることなく、バランスよく見なければいけません。この連載のひとつのテーマは、「損をしないために」ということなのです。

(構成=石井謙一郎)
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