2.私用携帯を使うほどの装備の貧弱さ

また、貧弱な装備も指摘されている。その一つが、最前線での意思疎通に欠かせない通信機器。前線のロシア兵が持つ無線機は安価な中国製で、暗号化された通信ができなかった可能性がある。このため、通信の大部分がウクライナ軍側に漏れていたと見られる。実際、ウクライナに住むアマチュア無線の愛好家でも傍受できる状況だったようだ。通信の暗号化は軍事行動の基本中の基本だが、それができていなかった。

それどころか、通信環境が悪い場合には、私用の携帯電話で部隊指揮官などと連絡を取り合っていたとの情報もある。当然ながらウクライナ国内の携帯通信ネットワークを使うことになるので、これも内容は筒抜けだ。ウクライナ側に回線を遮断されたり、真偽不明のSNS情報ではあるが、携帯電話の電波塔を自ら砲撃して通信不能に陥ったりすることもあったという。いずれにせよ軍隊の行動としては、お粗末としか言いようがない。

3.指揮を執る将官を5分の1失っている

指揮系統が混乱する中で、開戦から短期間のうちに、ロシア軍では部隊の指揮を執る20人の将官クラスのうち4人が死亡している。通信機器の問題や意思疎通の混乱で最前線まで自ら出ていく必要があったという説や、NATO軍の情報支援を元にウクライナ軍の狙撃手が標的にした結果との指摘もある。ただ5人に1人というこの死亡率の高さは米軍などでは考えられない。また4月末までには、計9人が死亡したと伝えられている。

豊島晋作『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか 「独裁者の論理」と試される「日本の論理」』(KADOKAWA)

さらに5月の上旬時点では、ウクライナ軍は12人のロシア軍の将官を殺害したと発表している。これはかつてソ連がアフガニスタンにおいて10年間で失った将官の人数の2倍だ。ウクライナ軍の発表している数字なので信頼性に疑義はある。ただ、この数字に関しては比較的信憑性が高い。なぜなら、ロシア軍としては生きている本人をメディアに露出させるなどといった反証が可能だからだ。しかし、ロシア軍は将軍たちの生存を証明できなかったようだ。

プーチン大統領に忠実なことで知られるチェチェン共和国の独裁者カディロフ首長の部隊もウクライナ入りしている。カディロフ首長の軍隊はこれまでも非合法な殺人や誘拐など残虐な行為でしばしば批判されてきた。今回の侵攻では、ロシア軍の指揮系統には入らず、プーチン大統領の命令にのみ従っていたと指摘されている。これが、最前線の現場を余計に混乱させた可能性もある。