目標まで「あと10ポンドです。ほんとうにログアウトしますか?」
私もそうだった。私はその週の大まかな収入目標を設定し、それを細かく分けて毎日の目標額を決めた。ウーバーのアルゴリズムはときどき、まだ車内に客がいる段階で次の仕事のチャンスを携帯電話に知らせてくることもあった。ネットフリックスで連続ドラマを見ている最中に、まだスタッフロールが流れているにもかかわらず、“一気見”を狙って次回のエピソードが自動的に読み込まれるのと同じだ(※2)。
純利益330ポンドまであと10ポンドです。ほんとうにログアウトしますか? ――ドライバーがより長く運転を続けるよう刺激するために、ウーバーは、テレビゲームと同じ心理的な標的設定テクニックをうまく利用した。つまり、決まった目標に対して段階的に近づくという感覚をドライバーたちに与えようとした。
ウーバーがこのような手段を採れるのは、私たちドライバーの活動と全員の現在地の両方を追跡できるからだ。そこには、余剰能力を活用できるという利点もあった。理論上、人や車両が稼働していない時間が減るため、それにともなって生産性が向上した。
たとえば、私が家に帰ろうとある方向に移動しているとする。そのことをアプリに知らせると、同じ方向に向かう乗客を自動的に探してくれるので、無駄な移動を抑えることができた。携帯アプリの発達によって、他者とつながって余剰能力を共有することは非常に簡単になった。
※2 https://www.nytimes.com/interactive/2017/04/02/technology/uber-drivers-psychological-tricks.html
深夜や早朝に働くほど低い評価がつきやすい
ウーバーによる管理は、乗客とドライバーの評価システムを通してさらに徹底されていた。すべての旅程の終わりに、ドライバーと乗客は1~5つ星で互いを評価することができる。ウーバーは、各ドライバーに与えられた星の平均値を注意深くモニターした。
すべてのドライバーにはまず、自動的に5つ星の評価が与えられる。適切に行動するかぎり、その評価を短期的に保つのはそれほどむずかしいことではなかった。星による評価システムに加え、移動を終えた乗客の評価にもとづいてバカげた“eバッジ”がドライバーに与えられることもあった。たとえば、「良い車」「車内の設備がいい」などという評価だ。
しかし、長く働けば働くほど――とくに稼ぎのいい深夜や早朝に働くほど――低い評価を受けやすくなった。
ときに、渋滞のせいで迎えの時間に遅れると、客が怒り出すこともあった。あるいは、乗客が誤った居場所をアプリに入力し、迎えにいったときにその場にいないことがあったが、それもドライバーのせいにされた。
さらには、侮蔑的な態度を取る乗客もいた。そのような乗客は決まって、経済階層のより下にいる人々を侮辱することに大きな楽しみを見いだす人種だった。女王が依然として王位に君臨し、ロンドン証券取引所が毎朝取引を行なっているように、変わらずタクシー・ドライバーを罵る人々がいた。