「遠くまで行き、近くで降ろす」という割の合わなさ

たとえば、こんな状況を想像してみてほしい。12時間の過酷なシフトの終わりに近づいたとき、家に帰るまえに最後にもう1件だけ仕事を引き受けることに決めたとする。腕時計は朝の4時前を示している。窓を開けると、車の排気ガスのブンブンという音の奥から、夜明けの鳥のさえずりがかすかに聞こえてくるような時間だ。

地平線に昇る太陽のオレンジ色の光の輪が街を包み込むまえに帰宅すること、それだけは死守しなくては――。しかしそのとき、携帯電話からビープ音が鳴る。乗車を希望する客は車で20分離れた場所にいるが、その仕事を受けることにする。客を車に乗せると、行き先が非常に近い最低運賃5ポンドの仕事であることがわかる(この最低運賃はウーバーが手数料を差し引くまえの額で、わずか3ポンド94ペンスの仕事をしたこともあった)。

また20分かけてもとの場所に戻ることを考慮すると、1時間かけて5ポンド以下しか稼げなかった計算になる。あるいは、目的地が自宅とは反対方向に30分の場所だったら? その場合、再び長い距離を戻って家のドアを開けるころには、もう朝の6時になっているだろう。

14時間近く運転しつづけた挙げ句、最後にはお金のもらえない50分の“デッド・タイム”が発生したというわけだ。ベッドにそっと入るころ、ほとんどの隣人たちはテーブルに坐って朝食を食べているにちがいない。

乗車依頼を3回連続で断るとアプリが停止

分別のある人間であれば、このような割に合わない仕事を喜んで引き受けることはないはずだ。だからこそ、ウーバーはドライバーに長時間にわたって仕事を拒否することを許そうとしないのだろう。

同社はドライバーたちに、乗車リクエストの80パーセントを受け容れなければ「アカウント・ステータス」を保持することができないと通知している。ドライバーが3回連続で乗車リクエストを拒否すると、自動的にアプリが停止する場合もある。

なかには、2回連続で拒否しただけでアプリから強制ログアウトされた例もあった。「あなた自身が社長」という美辞麗句とは裏腹に、強制ログアウト後10分間はアプリにログインできないという事実は処罰のように感じられた。

これは表向きには、実際は手が空いていないにもかかわらず誤ってログインしたドライバーに対する当然の予防装置だとされていた。しかし、たんにドライバーをいったんログオフし、準備ができ次第すぐに再度ログインできるようにすればそんなのは簡単に回避できる。