「自営業ドライバー」は言葉の錯覚でしかない
このシステムについてなにより注目すべき重要な点は、いったんアプリにログインしてしまえば、どの仕事を引き受けるかについてドライバーに選ぶ権利はほぼないということだ。つまり、ほとんどの場面においてドライバーは、ウーバーのアルゴリズムに指示されたところに行かなくてはいけないことになる。
真夜中に40分かけてロンドンの反対側に行き、また戻ってこいとアプリが指示すれば、ドライバーはそのとおりにしなければいけない。さもなければ、ウーバーから罰を受けることになるだけだ(まずアプリからログアウトされ、次に事務所に呼ばれ、最後にはアカウントが永久に無効化されてしまう)。
このような厳しい管理によってタクシーの待ち時間が減ると、必然的に顧客の満足度は上がってウーバーの利用回数も増える。しかしながら、運転者が自営業者であることを考えると、それは奇妙な運営方法にも思えてくる。私がこの仕事を通してわかったのは、さまざまな面において「自営業」は言葉の錯覚でしかなく、現実とはほぼ乖離したものであるということだった。
人間の心理を利用した巧妙なアルゴリズム
客を乗せて道路を走ることには、ときに中毒性があった。アメリカのウーバー本社は行動科学の研究をもとにした心理的操作を行ない、ドライバーが働くタイミングと労働時間をコントロールしようとした。
2017年の『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事によると、ドライバーを長時間にわたって働かせるために、ウーバーは「利益目標を定める人間の習性を利用し、運転手がログオフしようとしたときに“貴重なターゲット達成まであと少し”というアラートを出すようにした」という。
「私たちは、需要が高い地域をドライバーに示したり、もっと運転してもらうために動機づけしたりしています」とウーバーの広報担当者であるマイケル・アモデオは認めた。「しかしドライバーはいつでも、文字どおり画面をタップして仕事を中断することができます。運転するかどうかの判断は、すべてドライバーに委ねられています(※1)」
あるドライバーがこんな計画を立てているところを想像してみてほしい――夕方から車を走らせ、一定の金額(たとえば100ポンド)を稼いでから帰宅する。当然ながら、これは非常に効率の悪い働き方だ。もし仕事がなければ、その日はさっさとあきらめて家に戻り、また客の多いタイミングで仕事に戻ったほうが効率的なことは自明だろう。
にもかかわらず、とくに働きはじめたばかりのころには、ほぼ全員がこのように目標金額を定めて仕事をしようとする。
※1 https://www.nytimes.com/interactive/2017/04/02/technology/uber-drivers-psychological-tricks.html