統一教会に嫌悪を抱いたのに、自ら飛び込む信者

1992年8月に3万組の合同結婚式がありましたが、それを前にテレビのどのチャンネルも統一教会に関する話題ばかりでした。ライフトレーニングの受講生たち(6~7人)とテーブルを囲んでお昼を食べていました。テレビから流れる合同結婚式の映像に受講生らは「気持ち悪いね」「誰がこんな宗教に入るんだろう」「信じられない」などと言っています。

午後の講義が始まります。そして最後に「さて、皆さんが学んできた講義内容は誰が解明されたかというと」と言い、黒板に「世界基督教統一神霊協会」と書きます。

「先ほど、皆さんがテレビで見ていた、統一教会の文鮮明先生が解き明かされた内容です」

すると、受講者たちは一瞬、絶句し、その後、「えっ」「うぇ~」という悲鳴にも似たような声を出します。それはそうでしょうさっきまで、悪口を言っていた団体なのですから。

さて、その後はどうなるか。

このときは全員、次のステップである4Daysに参加しました。そしてその次のトレーニングにもほとんどの人が参加して、信者としての道を歩み始めます。

ここがこの勧誘システムの恐ろしいところです。あんなに合同結婚式を行う統一教会に嫌悪感を抱いていても、次の瞬間、受け入れてしまう状況に追い込まれるのです。

ここにはカラクリがあります。

実は受講生はそれまでに受けたビデオによる勉強会などで感想文を書き、その時に話をした内容はカウンセラーの所見として報告され、本人の悩みを含めてストックされていて、個人情報は組織内ですべて共有されています。

当時、筆者の上には教育部門をつかさどる長がいました。その人を中心に、毎日のように、「どうやって信者にしていくのか」という会議が行われます。「統一原理は受け入れているか」「本人は何を動機にして、統一教会の教えを聞いているのか」「霊界の存在はどのくらい信じているか?」「お金はどのくらいもっているか?」などです。

一人ひとりの受講生の状況が報告され、講師やトレーニングのスタッフがどう接するべきかの指示がなされます。

さらに、「統一教会という名を明かした時にどういう態度をとるか」「拒否した時には、どういう対応をとればよいのか」など事細かに指示されて、対策が打たれています。そして、相手が断るだろう言葉はすべて封じておくのです。

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仮にA子さんが「だまして教えたのですか! 統一教会の悪評は知っています!」と、言ってくることが想定される時には「マスコミはすべての真実は話してくれません。今まで接してきた人たちがそんな悪い人たちに思えますか?」と切り返します。

さらに「もう少し先に進んで、真実を確かめても良いのではないですか? イエス・キリストのように、真実を話すものは言われなき誹謗ひぼう中傷を受けるものです」と諭すのも常套手段でした。

統一教会と言われて、相当反発することが予想される人には、個別の部屋を用意して、他の人への悪影響を及ばさないようにさせることもあります。すべての否定的要素は封じておくのです。

受講生らは心が教義に染まっている状況である上に、このような万全の対策を取っています。そこで「4daysはどうする?」とわざと聞きます。しかし、彼らはすでに「先に進みます」というしかない状況に追い込まれています。

自分で選んだように思わせて、先に進ませる。これが手なのです。

つまり、旧統一教会内ではその人の個人情報は丸裸になっており、組織的個人という完全アウエーの状況で、受講生らを信者への道を歩ませます。

しかしこれは信者教育だけに限ったことではありません。献金や物品購入においても同じです。もしA子さんが500万円の貯金があったとします。すると、そのことが会議のなかで取り上げられます。

「霊界、因縁は信じているか?」「救われた実感を持っているか?」などの話がなされています。特に「神の言葉に反したら、神の子になれず、地獄にいく」「不幸な人生になってしまう」「家族、親族が悲惨な状況になる」などの恐怖心を感じているかが、大事なポイントになっていたように思います。

こうした入念な打ち合わせが行われた後に「先祖の悪因縁があるということで、100万円の印鑑を買わせなさい」と指示がなされます。

さらに「4Daysで、統一教会のことを受け入れたら、次のトレーニングで、お父様(文鮮明氏)の神の国をつくるため、残りの400万円を献金させるようにしなさい」という方針が決められて、後日、A子さんに実行されます。

すでにA子さんは、統一教会の教えに染まっているので、手のひらで転がされるように全額を統一教会に払ってしまうわけです。

なんで統一教会に入信してしまい、多額の献金をしてしまうのだろうと思う方は多いと思います。この「自発的に入信した」「自分から、神の国実現のために献金した」と誘導させる手口こそが恐ろしいのです。