「選挙区はサファリパーク」有権者は遠くから政治家をじーっと見ている

福島氏は選挙区回りを「サファリパーク」にたとえる。通産官僚時代にケニアに出張した際、草原地帯を車で移動している時の感覚に似ているからだという。「サバンナを車で移動しても、動物は見えない。草原が広がっているだけ。でも、何か視線を感じるので、車で通り過ぎた後を振り返ってみると、茂みの中から動物が出てくる。地元の有権者も同じ。政治家が回っている姿をじーっと見ているんです。例えば、貧しそうな家を回らなかったとか、瓦屋根が落ちそうな家やゴミ屋敷は飛ばしたとか。そういうのを全部見られている」。だから、福島氏は、一つの集落に行けば、必ず全戸を回るようにしている。「例えば200軒あれば、200軒。回っていない家があれば、その人を敵に回す」。

選挙区は「しらみつぶし」に回る

しらみつぶしでなければ選挙区回りの効果が少ないどころか、逆効果になることに気づいたのは03年、05年と衆院選で2回続けて落選した後のことだ。その2回の選挙では、つてを頼りに必死になって作り上げた支援者名簿や高校の同窓会名簿をもとに選挙区を回っていたが、「3回目は最後の挑戦。一軒一軒全てを回ろう」と開き直った。使ったのは、住宅地図と四色ボールペン。一軒一軒ごとに訪問日を記す際、ポスターを貼ってくれるなど強く応援を約束してくれた世帯は赤色の文字で、「一票、入れるよ」と言ってくれたら緑色、「頑張って下さい」という一般的な反応の場合は青色、不在の場合は黒色といった具合だ。パンフレットを受け取ってくれなかった世帯には「×」をつけた。

蔵前勝久『自民党の魔力 権力と執念のキメラ』(朝日新書)

「あなたは、これまで支持者の家ばかり回っていたよね」と言われたことがあるわけではない。ただ、しらみつぶしに回ることによって、有権者たちは、その政治家が本気かどうかを見ている、ということに何となく気付いた。福島氏は言う。「言葉にすれば安っぽいが、『この人は、全てを捨てて人生をなげうっている』『この政治家は、人生をかけて、国のため、地元のため、私たちのために議員になろうとしている』という風に相手に信じさせないと、他人は自分にはついてきてくれない」。

高校の同窓生や党の支持者に頼ってばかりでは、有権者は「福島という政治家は本気だ」とは見なしてくれない、というわけだ。「多くの政治家は、全てを捨てたつもりになっても捨てられていないものがある。人間としてのプライドだったり、学歴の誇りだったり、家族の幸せだったり」。徹底的なローラー活動に取り組む福島氏から全てを捨てている必死さが感じられるためか、有権者から「なんで、こんなことをやっているのか」と尋ねられることがある。福島氏は笑って、こう答える。「悪い霊が私についているんです。自分の幸せや家族の幸せを追い求めても全然面白くないんです」。

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