1年間で3回のリニューアルを繰り返した理由とは…

新製品として発売されたその日、普通なら「販売促進に力を入れるよう」とげきを飛ばすところですが、わたしは開発担当者にこう指示しました。

「すぐにリニューアルに着手するように」

金の食パンは際立っておいしい。おいしければおいしいほど、続けて食べればお客様は飽きる。飽きられる前によりレベルアップした商品を投入できるよう、準備を始めさせたのです。

リニューアル版は、ハチミツを増量するなど、原材料を見直し、食感をより高めて、6カ月後に発売しました。その後も手は休めず、リニューアルは1年間で3回行いました。そこまで徹底しなければ、お客様の支持は得られません。

老舗の料理店などでも、お客様は味が変わらないように感じても、実は毎年のように改良改善しているといいます。セブン‐イレブンでも、ざるそばのつゆやおでんの出汁も、毎年、改良改善しています。

お客様に「変わらずおいしい」と思っていただくために、売り手側が変わる。

売り手のあらゆる努力はお客様のロイヤルティを高めるためにある。高い収益はその結果にすぎません。お客様の求める価値を固定的にとらえたとき、その企業や店舗は支持を失うでしょう。

努力を積み重ねてお客様のロイヤルティを築くことができても、一度でも失望されれば、すべてが崩れます。お客様のロイヤルティは得るのは難しく、失うは易しです。

もし、提供する商品・サービスのレベルは落ちていないつもりなのに、お客様が離れていくようであれば、同じレベルを続けていること自体に原因があると自覚すべきでしょう。

発案者が“高級食パン”に目を付けたワケ

わたしは経営者時代、よく、「鈴木さんはいろいろなアイデアを発案しますが、どうやって情報を収集しているのですか」と聞かれましたが、意識して情報を集めていたわけではありません。

クルマの中でラジオをつけっぱなしにしたり、新聞や本を読んでいたり、人の話を聞いていたりしているときに、これはと思う情報が頭の中のフック(釣り針、かぎ)に向こうから引っかかってくる。それが、何かを考えるときにとっかかりになりました。

誰でも自分の関心のある情報は自然と取り込まれているはずです。わたしの場合、芸能関係の情報など聞いても何も残りませんが、若い人は関心が高いからどんどんフックに引っかかるはずです。仕事においても同じです。

たとえば、わたしが金の食パンの開発を思いついたのも、専門店や高級レストランでは、よりおいしいパンが一斤300~400円でも人気を博していて、その情報が頭の中のフックに引っかかっていたからです。

低価格ではなく、質を追求したセブンプレミアムの開発も、デフレの中にあっても、多少値段が高くても、質の高いものを消費者が求める例がフックにかかっていたからです。