絶対に負ける戦に巻き込まれたら…「お腹が痛い」と言って逃げろ
【池上】佐藤さんご指摘のように、「現代の二〇三高地」は他人事ではないと思います。組織に属していれば、大なり小なりそうした状況に巻き込まれる可能性がある。そういう時にどう行動すべきなのかについて、最後に論じておきましょう。
【佐藤】言わずもがなのことですが、危うい現場には極力近づかないことです。「この案件を上手に処理してくれたら、昇進を考えるよ」というような誘いがあった時に、意気に感じて乗るか、一歩引いて「自分にこのような依頼をするというのは、会社は相当まずい状態にあるのではないのか」と俯瞰して考えられるか。
【池上】実際、さきほどの東芝の例では、実行した社員の前には、取締役のポストという餌がぶら下がっていたわけです。
【佐藤】サラリーマンなどの場合には、否も応もなく泥船の乗組員にされてしまうこともあります。そういう時は、とにかく冷静になって考えましょう。
例えば、会社の業績が悪化した結果、やたら上司が精神論を説き出したら、もう手持ちのリソースが枯渇したんだなと悟る。そうである以上、運が悪かったと観念して、当面は上司の信じる限定合理性に従って行動するしかありません。
【池上】会社を辞めない限り。
【佐藤】ただし、絶対に負ける戦を一生懸命やらない。ガダルカナルに行っても、お腹が痛いとか何とか言って突撃隊には加わらず、時を待つのです。そうすれば、駆逐艦に乗って帰れる可能性がありますから。
【池上】へたに突撃隊に加わると、戦犯として後で責任を追及される可能性もありますからね。
「冷静に」と言われましたが、とにかく自分が今巻き込まれているのは限定合理性の渦で、客観的に見たら決して合理的な行動ではないんだ、ということをしっかり自覚するのが重要です。そのうえで、被害を最小限に止めることを考えるべきでしょう。
【佐藤】そう。「天命を信じ、全軍突撃(玉砕)せよ」という号令に粛々と従うのは避ける。命じられるまま仕事をやっているふりをしながら、逃げ出す機会をうかがうのが、最も賢い戦術と言えます。