米欧の制裁にならって日本も円借款を凍結した

日本政府は、天安門事件を受けて、対中制裁を強めた米欧諸国にならい、円借款など対中政府開発援助(ODA)を凍結した。こうした中、中国指導者からは日中経協ミッションに厳しい言葉が相次ぎ、緊張感すら漂った。

写真=iStock.com/bjdlzx
※写真はイメージです

11月12日午前10時半、人民大会堂東大庁。

李鵬総理は日曜日に、ミッションとの会談に応じた。11時35分までが全体会談。続いて12時半まで、斎藤英四郎、河合良一、経団連副会長の平岩外四(東京電力会長)、日中経協副会長の小林庄一郎(関西電力会長)の首脳4人と少人数でより突っ込んで意見交換した。大使館からはナンバーツーの次席公使、久保田穣が同席した。

「松下幸之助先生の指導のもと、北京でブラウン管工場が設立された」

全体会談で李鵬は、天安門事件当日の6月4日も工場の操業を停めなかった松下電器産業(現パナソニック)の件に言及した。

「この企業は事件の最中、北京が最も混乱している時期にも生産を止めなかった。私は2度視察しているが、この工場が日中合弁のモデルになることを希望する」

「日本は米欧の逆を行っている」と李鵬総理は批判

李鵬は対中制裁にも言及した。

「中国にとっても勿論、何らかの損害を伴う。しかし何らかの形で制裁をする側にもはねかえってくることも間違いない。注意深く、良く見ると、世界の先進7カ国の中にも、対中経済制裁のやり方は、口で言うのと実際のやり方に食い違いがある。ある国は(制裁を主張する)口数は多いが、実際面ではあまり行っていない。また口ではあまり言わないが、実際的には逆に行っているところもある」

李鵬は具体的にフランスを例に挙げ、「政治的には対中態度は最も厳しい(悪い)が、経済界の人々は政府より柔軟で弾力的」と述べ、広東省の大亜湾原発は英仏が落札したと紹介した(橋本大使発外相宛公電「日中経協訪中ミッション[李鵬総理との会見 全体会談]」1989年11月13日)

「口ではあまり言わないが、実際的には逆に行っているところもある」。名指ししないが、日本のことを批判したのだ。李鵬の発言は、人民大会堂にいた日本財界首脳らにとって耳の痛いものだった。

続いて斎藤、河合、平岩、小林の財界首脳4人と李鵬との少人数会談に移った。李鵬は熱心にメモを取りながら日本側の発言に耳を傾けた。

「(10月の)国慶節の際訪中し、李鵬総理と会った際、(竹下登との)総理同士の約束だという話であった第3次円借款については帰国後政府の関係機関に伝えたが、残念ながら未だ再開されていない」と発言したのは河合だった。李鵬はこう答えた。

「どうやって(中日関係の)突破口を開くかについては、熟成した考えではないが、まず実際の仕事から始めてはどうかと思っている」