「ロースとサーロインどちらが高いか」にどう答えるか
むしろ、消費者庁も農畜産業振興機構も、焼肉店を訪れる消費者のことを知らないのではないか。はっきり言って、焼肉好きには「ロース=優良」だという認識はほとんどない。
冗談ではなく、ロースが肉の部位を指しているということすら知らない人もいるかもしれない。もし「ロース、サーロイン、モモ、カルビを仕入れ値の高い順に並べよ」という意地の悪い設問があっても、設問に問題があると看破できる人はごくわずかだろうし、ざっくりした仕入れ値の順序を並べられる人もかなり少数だと思われる(ちなみにこの設問は、サーロインはロースの一部に含まれていて、「ロース」が何を指すかが不明確。設問として成立しないという意味においてたいへん底意地が悪い)。
焼肉店において、肉の良しあしは部位によるものではない。「上」や「特上」という各店舗による格付け上位のもの、もしくは近年、良質なものの入手が著しく難しいハラミやタンなどの人気の部位を指す。「ロース」だけをやり玉にあげたところでそもそも焼肉店には悪気がなく、消費者メリットもない。取り締まりの方向が根本的にズレているのだ。
焼肉好きとって「ロースがどこの肉か」はささいなこと
そもそもこうした苦情自体がどうか。焼肉店における「ロース」が「部位としてのロースかどうか」という焼肉好きの消費者には重箱の隅とも言えることにめくじらを立てている時点で、どことなく気持ち悪く感じられる。
ことの真偽は不明だが「同じ商材を扱っているのに、規制がゆるいように見える焼肉店に腹を立てた精肉店の筋違いな腹いせでは」との話も聞こえてくるほどだ。
実際、消費者庁には端緒となった通報以外に苦情は寄せられていないという。唐木教授は「規制の必要性について、消費者庁は少なくとも事前に消費者たちと意見交換するべきだったのではないか」と話している。(2011年1月10日付中日新聞朝刊)
※文中の「唐木教授」は東京大学名誉教授の唐木英明氏を指す。