「ロースは特徴を表すメニュー名だ」と焼肉業界は猛反発

ことの発端はたった一人の客からの消費者庁への通報だったという。

愛知県内の焼肉店で「ロース」を注文した客が店員に使用部位を聞いたところ、「ロースはもも肉で、上ロースがロース肉」と回答。すると客が「表示がおかしい」と消費者庁へ苦情を申し立てた。

通報を受けて、消費者庁は調査を実施。多くの店の「ロース」メニューに「ロース」部位が使われていなかったため、「不当表示(優良誤認)」だとして、業界団体である全国焼肉協会に改善を要求したのだ。

業界にとっては寝耳に水だし、「焼肉店における『ロース』とは赤身を意味する。部位名というより特徴を表しているのに、ただ部位名に変えろというのは乱暴すぎる」と猛反発。「モモをロースと喧伝するのは優良誤認だ」とする消費者庁など霞が関と、「部位ではなく、特徴を表すメニュー名だ」と抗弁する焼肉店との間の溝は深かった。

懲役や罰金のリスクに「ロース(もも)」表記案が浮上

もっともこの時点では話し合いへの道筋もあった。総務省のホームページによれば、「行政指導」とは「役所が、特定の人や事業者などに対して、ある行為を行うように(又は行わないように)具体的に求める行為(指導、勧告、助言など)をいい」、「行政指導は処分ではないので、特定の人や事業者の権利や義務に直接具体的な影響を及ぼすことはありません」と明記されている。しかし、当時の消費者庁は矛を収めなかった。

消費者庁は半年間の周知期間後もロース部位以外を「ロース」と表記する店があれば、措置命令を出すと決めた。違反には懲役や罰金が科されるため、業界は戦々恐々。協会は「ロース(もも)」と表記する案を検討中。だが、同庁は厳正表示を求める。(2011年1月18日付中国新聞夕刊)

農水省の外郭団体も歩調をそろえた。

農畜産業振興機構(東京)によると、国産和牛の全国小売価格(2009年度平均、100グラム)は、サーロインが1218円なのに対し、ももは643円。消費者庁表示対策課の担当者は「消費者にとって『ロース』は高級肉のロース。業界の慣行は言い訳にならず、消費者の認識と乖離かいりがあれば適正化を図ってもらうのは当然」と話す。(2010年11月20日付中日新聞朝刊)

消費者庁表示対策課の担当者は「消費者にとって『ロース』は高級肉のロース。業界の慣行は言い訳にならず、消費者の認識と乖離があれば適正化を図ってもらうのは当然」と強い語調で言うが、ここで言う消費者とは誰だろう。