しかし現時点ではフリーゲージトレイン開発の目途は立っておらず(※)、東急と京急の直通運転は当分実現しそうにない。

そのため答申第198号では矢口渡―京急蒲田駅間と京急蒲田―大鳥居駅間を切り離し、前者を一期整備として位置づけ、事業化に向けた関係機関・事業者との費用負担の在り方について合意形成を進めるべきとの具体的なマイルストーンを掲げたのに対し、後者は2期整備として「軌間が異なる路線間の接続方法等の課題があり、さらなる検討」が必要と整理された。東京都と大田区の今回の合意は、この答申を踏まえたものとなる。

※フリーゲージトレインは西九州新幹線、北陸新幹線に導入が検討されながら、開発に失敗して頓挫した事例が有名だが、これは高速走行を行う新幹線において重量管理やメンテナンスが問題となったことによるもので、高速走行を行わない在来線用フリーゲージトレインの可能性は否定されていない。2018年には近鉄が軌間の異なる南大阪線と橿原線を直通させるためのフリーゲージトレインの開発に着手したと発表している。

自治体負担のうち7割を大田区が支払う

さて「新空港線」という名称とは裏腹に矢口渡―京急蒲田間の先行整備に向けて動き出した蒲蒲線だが、整備にあたっては、既存の鉄道施設を有効活用して速達性向上を促進する「都市鉄道等利便増進法」のスキームを採用する(利便増進法自体が蒲蒲線を念頭に作られた制度という説もある)。総事業費は約1360億円のうち、国と地方自治体がそれぞれ3分の1を補助し、地方自治体負担分のうち都が3割、大田区が7割を負担する。

負担割合の算出根拠について、大田区は「新空港線の利用者のうち、区は空港アクセスを除く大田区発着に関する旅客分を、都は空港アクセスに関する旅客等その他の旅客分を、それぞれ負担することとしたため」と説明する。

「新空港線」と「蒲蒲線」という2つの顔を持つ路線に対して、空港アクセスという広域に影響を与える前者については都が、区内ローカル輸送の改善という後者については区が負担する整理だ。ただ旅客の7割が大田区を発着するということは、やはり実態としては「蒲蒲線」なのだと言えるだろう。

一方、すでに空港線がある京急は…

残り3分の1は、都や区などが出資する第3セクターが資金調達し、同社が整備主体となって整備を進める。この借入金は、営業主体となる東急が開業後、整備主体に支払う施設使用料を原資として償還する(試算により採算性は確認されている)。

では後回しとなった2期整備(京急蒲田―大鳥居間)はどうなるのだろうか。大田区は京急乗り入れを実現するための技術的な課題解決は1期整備と並行して進めるとしており、フリーゲージトレインなどの技術開発が実現すれば1期整備の完成を待たずに2期整備に着手する可能性もあるが、解決されなければ1期整備終了後にすぐ2期整備が動き出す保証もないという。