深刻化する選挙制度への影響

【堤】ええ、その通りです。今、中国のように……という話が出ましたが、民主主義への脅威という意味では、GAFAMのようなデジタルプラットフォーマーが各国の選挙制度に与える影響は、年々深刻になっている問題の一つでしょう。

アメリカではオバマ大統領が勝利した2008年あたりから選挙戦の軸がSNSに移ったんですが、2016年の大統領選挙では、フェイクニュースの拡散がトランプ当選を後押ししたとしてFacebookが責められる光景が繰り広げられました。

【斎藤】選挙コンサルタント会社ケンブリッジ・アナリティカが、約5000万人分のFacebook上の個人情報を徹底分析して、選挙マーケティングに利用しましたからね。

写真=AFP/時事通信フォト
2016年11月の米大統領選で勝利宣言をするドナルド・トランプ氏。フェイクニュースの拡散がトランプ氏を後押ししたとFacebookへの批判の声も上がった。

【堤】はい、「史上最悪のSNSスキャンダル」と言われたあの事件……集めたデータが不正に政治利用されたことでFacebookの株価が急落したのを覚えています。

でも私があのとき一番怖いなと思ったのは、当初Facebookとケンブリッジ・アナリティカ両社から出た、「違法なことはしていない」という証言でした。

まあそうは言っても炎上は止まらず株価は下げ止まらず株主訴訟にまで発展して収拾がつかなくなったので、最後は謝罪して、「SNSは民主主義に悪影響をもたらすこともある」などと渋々認めましたが、問題の根っこはそのままです。

「私たちはメディアじゃない」という逃げ道

【堤】トランプを有利にするデマ記事の拡散を責められた時もそうですが、マーク・ザッカーバーグは一貫して自分も被害者だという立場を変えていません。「私たちはメディアじゃない」からと。メディアじゃない、つまり、情報がどう扱われるか、そこまで責任は取れません、ということです。でも本当にそうでしょうか?

あの事件が世界に見せつけたのは、今やプラットフォーマーが既存メディア以上に言論空間を支配している現実と、放置すれば彼ら自身が認めているように、確実に民主主義が侵食されていくこと。

ここまでの影響力を持ってしまったGAFAMには、もはや公共インフラと同等の規制が必要でしょう。EUではすでにデジタル税や競争法に独禁法、個人情報保護規制を厳しくするなどルールを次々に適用し、日本でも総務省や経産省、公正取引委員会などが動き出しています。そして個人情報が投票行動の誘導に悪用されるリスクに対しては、有権者である私たち自身がキッパリとノーを言う必要があります。「メディアじゃないんで」などと、逃げ道を作らせちゃいけません。