資本主義と全体主義はデジタルで統合される

【斎藤】あらゆる規制を取り払う新自由主義を進めれば進めるほど、すでに大きな企業が有利になり、寡占化して、格差がどんどん広がっていきますよね。

ピケティらによれば、最上位の2750人だけで全体の3.5%に当たる13兆ドル(約1700兆円)もの資産を独占しています。

斎藤幸平氏
撮影=増田岳二

【堤】ええ、今私たちが見ているのは、弱肉強食の食物連鎖が進みすぎて、もはや「支配」の域に達した格差です。

その流れでこの間すさまじく貧困大国化が進んだアメリカで、格差の上にいる層は、「情報統制」と「大衆管理」によって富を拡大し、このピラミッド構造を強化してきました。

この二つはさっき話したナチスや旧ソ連が使った手法ですが、あのときと違うのは、独裁者の顔が見えないこと、そして私たちがこのシステムを強化するための個人情報を、自ら差し出していることです

今や情報統制も人間の管理も、かつてない規模とスピードで実行するデジタルという新しいテクノロジーが出てきた、そしてそのプラットフォームはGAFAMのような数社の企業が握っています。

資本主義と全体主義は、今後デジタルで一つに統合されてゆくでしょう。そこから「デジタルファシズム」というタイトルが生まれました。

人間の思考や行動にまで介入するGAFAM

【斎藤】そして、私たちのプライバシーに関わるような次元にまでGAFAMが入り込んできたわけですね。

ショシャナ・ズボフの『監視資本主義』(東洋経済新報社)という本でも指摘されていますが、GAFAMは利用者の情報を徹底的に集めながら、それを使って、より洗練された広告や商品を生み出すことで、私たちの思考や行動にまで介入するようになっている。

そうした傾向性がコロナ禍で加速し、医療や教育といった社会の根幹にまで広がりつつある。となると、未来の社会はどうなってしまうのかと心配になります。

【堤】はい。ズボフ博士のあのご指摘は、人類にとっては「重要な警告」ですが、私が以前にいた金融業界にとっては「新しいドル箱」です。「行動先物市場」というこの金融商品は、巨万の富を生み出しています。

人類史上初めて、私たちの頭の中が商品になった、そしてそれは、斎藤さんが懸念するように医療や教育はもちろん、今後社会のあらゆる分野に拡大してゆきます。

新自由主義は自由経済から「競争」を消滅させることで独占市場を手に入れてきましたが、それがデジタルと結びつくと、すごい勢いで加速してゆくでしょう。何故なら仮想空間には「道徳」すら存在しないからです。そういう意味では私たちは今、単にプライバシーという次元をはるかに超えた、人間のあり方そのものを問われるところに立っているんですね。