「なんといっても、現場のサービスを作っていくのは経営者でなく、その人個人です。経営者はサービスの現場を見ることはできない。見たとしても直すことはできない。経営者はお金を使っていい施設を造る。一方、サービスは現場の人間が自立して考えて実行する。経営者はそういう風土を作ることしかできません」
彼の言葉のなかにマルハンが成長した理由、太平洋クラブが再生し、新しい形の名門クラブとなった理由が示されている。
客はサービスの成長を待ってはくれない
一般には「どんな人でも教育で変えることができる」とされているけれど、それにはとてつもない時間と労力がいる。
一方で、施設にやってきた客は社員が教育で変わるのを待っている時間はない。今、そこで提供しているものがその会社のサービスだ。客は自分が行った時に納得のいくサービスと清潔な空間がなければ黙って出て行ってしまい、二度と足を踏み入れることはない。
ある客がゴルフ場に出かけていったとする。キャディサービスに満足がいかなかったとする。
帰り道に、その客は何を考えるのだろうか。
「さっきのキャディ、今回はダメダメだったな。しかし、3カ月後にきたら、丁寧にクラブを扱ってくれるに違いない。あのキャディの成長が楽しみだ」
そんなことを考える客が果たしているのだろうか。サービスがよくなかったのであれば、客は他のゴルフ場へ行く。
サービスとは提供された瞬間のものだ。客はサービスの瞬間でその施設のよしあしを判断する。お金を払っている客はサービスパーソンの成長を目を細めて見たいとは思っていない。
俊は客のことをよくわかっていた。客の立場でパチンコ店とゴルフ場のサービスを考えた。だから、サービスの素質がある人間を採用し、ある範囲内でだけ教育することにしたのである。
彼が取り入れた「イズム」とは従業員を束縛するものではない。現場の人間が自立してサービスを考えるためのツールだ。