現生人類は約20万年前にアフリカで進化し、その後、アフリカを出た集団がユーラシアから新大陸、太平洋の島々へと拡散して、地球上のすみずみにまで生活圏を広げて現在の社会を形成してきました。当初、狩猟・遊牧生活を送っていたヒトは、やがて野生動物の家畜化を開始します。

「ヒトも家畜も、野外で『うんち』をしながら移動生活をしていた。野外に排泄された『うんち』は、植物の栄養源になる。ヒトは移動しながら、ときに同じ場所に戻ってくると、その間に、前の滞在中に排泄した『うんち』によって植物が繁茂し、その恵みを受けることもあったに違いない。当時のヒトはおそらく、すでに『うんち』によるコミュニケーションをとることはなくなっていただろうが、『うんち』が植物を育て、その恵みを得るという循環を生み出していたと推測される」

ミエルダの話に、うんち君が継ぎ穂をします。

「でも、やがて人間社会は狩猟・遊牧生活から農耕・定住生活へと向かったんですよね」

かつては農地の肥料として重宝されたが…

狩猟・遊牧生活においては、「うんち」はまばらに野外に排泄され、そのまま放置しても特に問題は起きなかったでしょう。やがて始まった農耕・定住生活では、それ以前に比べ、ある程度限られた空間のなかで集中的に「うんち」が排泄されることになります。

写真=iStock.com/Aramyan
※写真はイメージです

ヒトや家畜の「うんち」は、農地の肥料として利用されるようになりますが、社会が発展し、特定の地域に人口が集中しはじめると、「うんち」の量は農地の肥料にする許容量を超え、処理しきれなくなっていったと考えられます。

こうして社会問題となった大量の「うんち」は、居住地から離れた場所へ移動させるようになっていきます。かつての日本では、農地に使用される肥料として、個々の農家で「うんち」が利用されていました。

「うんち」を蓄積する肥溜は、農村風景に当たり前のように溶け込んでいたものです。現在では、人工的に合成された化学肥料がそれに代わり、「うんち」の利用はほとんどなくなりました。

さらに都市化が進むと、大量の「うんち」は「下水処理」によって廃棄されていく運命をたどることになります。水洗トイレの開発・普及も進み、「うんち」は排泄後、すぐに流されるようになりました。

その結果、今や個人が自身の「うんち」に向き合う時間はなくなったばかりか、社会として「うんち」を有効利用するという機会がなくなりつつあるのです。

いじめ、消臭剤、流水音…うんちを遠ざける人間たち

「現代では、ヒトは排泄した『うんち』とはほとんど関わりをもっていないんですね……」

ため息をついたうんち君に、ミエルダがうなずき返します。