「うんち」にはどんな役割があるのか。北海道大学大学院の増田隆一教授は「人間は排泄物を遠ざけて生活しているが、動物たちは生き残るためにコミュニケーションの道具として活用している」という。増田教授の著書『うんち学入門』(ブルーバックス)から、エミルダとうんち君の物語をお届けする――。(第2回)

ただの排泄物ではない…動物たちの「うんち」の活用術

「動物の『うんち』は、個体間のコミュニケーションで具体的にどんなふうに利用されているの?」

うんち君の問いかけに、ミエルダが答えます。

「たとえば、仲間を集めるために『うんち』が使われているよ」

「えっ? 『うんち』で仲間を集める……? いったいどんな生き物が?」

うんち君は首を傾げています。

「これまでに知られているそうした生き物の代表は『ゴキブリ』だ。なかでも家屋の中に住んでいる小型のチャバネゴキブリの『うんち』に、仲間を引き寄せる物質が含まれていることが最初にわかったんだ」

「その物質は集合フェロモンと名づけられた。落とされた『うんち』に集合フェロモンが含まれているために、そのにおいをキャッチした同じチャバネゴキブリの別の個体が、においの発生源である『うんち』のところにやってくるんだ」

1匹のゴキブリが集団を作り出すカラクリ

ゴキブリは通常、物の隙間の薄暗い場所に好んですんでいます。

夜間にはエサを求めて単独で行動しますが、最初に隠れ家の隙間へやってきたゴキブリがそこで「うんち」をすると、その「うんち」から発せられた集合フェロモンによって、別の個体がやってきます。

その次にやってきたゴキブリが排泄した「うんち」にも集合フェロモンが含まれているため、次々と他の個体を呼び寄せ、集団を形成することになります。このように、集団形成のために個体を集合させる物質であることから、集合フェロモンとよばれるようになりました。

フェロモンとは、動物の個体で合成されて体外に分泌・放出され、同種の他個体に強い生理活性作用を起こす化学物質のことです。

カイコガの性フェロモンとして初めて発見され、カイコガの学名(ボンビックス・モリ)にちなんで「ボンビコール」と名づけられました。

体内で合成される量はごくわずかなので、その化学的な性質を調べるために膨大な試料が使用されたといわれています。