他方、水中における音の振動速度は速いため、イルカやクジラの仲間は、超音波を用いたエコーロケーションや鳴き声を使って、遠距離の個体のあいだでコミュニケーションをとっています。
ネコの「うんち」活用法
最近の研究では、イエネコのうんちの中に「なわばりを示す物質」が含まれていることが報告されています。その物質は硫黄を含んだ揮発性の化合物で、性フェロモンとしてもはたらき、メスはその「うんち」がオスのものかどうかを識別します。
さらに、ネコの「うんち」に含まれている種々の脂肪酸の割合が個体ごとに異なり、他の個体はそれを感知して個体識別していると考えられています。尿に含まれる成分も、重要なはたらきをしています。
また、散歩をしている最中のイヌが、電柱や大きな石に尿をかけたり、からだをこすりつけたりすることがありますが、これも、なわばりを主張するにおい付けの行動です。ペットになったイヌも野生の名残で、「なわばり」を示す行動をとるのです。
イヌではまた、足の裏の肉球にあるエクリン腺(汗腺の一つ)からのにおい物質を地面に擦りつけて、その砂を周囲に撒き散らす行動が知られています。これもまた、なわばりを示していると考えられています。
においやフェロモンでコミュニケーションをとっている
一方、においを隠すような動物の行動も見られます。
たとえば、ネコが砂場で「うんち」をした際には、後ろ足で「うんち」に砂をかけて隠すことがあります。これは、なわばりを示すこととは反対に、「うんち」のにおいを消すことで、自分の存在を周囲に知らせないためだと考えられています。
天敵には自身の存在を知られたくないし、獲物に対しても自らの存在を隠したいのでしょう。そのような場合には「うんち」のにおいは邪魔になり、砂をかけて隠蔽する行動をとることになると考えられます。
これもまた、においが自身の存在を示すシグナル、すなわち「分身」となっていることの証拠の一つです。うんち君が感心しています。
「動物は相手の姿を見ずとも、においやフェロモンをシグナルとして使って、個体間のコミュニケーションをはかっているんだね。そして都合が悪い時には、そのにおいを遮断して存在を隠すようにしている。そういう行動のなかで、『うんち』の果たす役割がとても重要なんだね」
暮らしから消えた「うんち」…ヒトはどう利用してきたのか
「動物たちが積極的に仲間とのコミュニケーションに『うんち』を活用することを見てきたけれど、最後に一風変わった例を確認しておくことにしよう。ホモ・サピエンス、すなわちヒトだ」
うんち君には、ミエルダの口調が少し変わったように感じられました。