便秘は「排便回数」だけでは判断できない
一般に便秘というと、排便回数が少ないことをイメージされると思います。ですが、単に回数だけで判断できないことをご存じでしょうか。判断のポイントは「本来排出すべき便を、十分量かつ快適に排出できているか」となります(日本内科学会雑誌第109巻第2号「慢性便秘症診療ガイドライン2017」)。数日排便がなくても便秘ではない場合もありますし、毎日排便があっても十分に出しきれない場合は便秘と言えるのです。
そのため、自覚症状がない、症状の原因が便秘だと思っていない、いわゆる隠れ便秘の人も多くいます。便秘は、体質のせいなどとして軽く見られがちなのですが、実はさまざまな疾患の原因や兆候であることがあるため注意したい症状です。正しい知識を身につけて、正しい対応をしていきましょう。
これまで、便秘によって命を落とすことはないというのが医師の中でも一般的な認識でした。ですが、近年その認識が変わってきており、便秘は治療により直すべきものと捉えられてきています。
便秘の人はそうでない人よりも「生存率が20%低い」
2010年に発表されたアメリカの研究をご紹介します。調査対象は3933人の成人男女で、15年間の追跡調査を実施しました。その結果、便秘の人はそうでない人と比較して、生存率が20%低いことがわかりました(Chang JY , et al.“ Impact of Functional Gastrointestinal Disorders on Survival in the Community” Am J Gastroenterol. 105(4): 822-832, 2010.)。便秘が直接の死亡原因とは考えにくいですが、さまざまなリスクを引き起こす一因となっていることがうかがえます。
便秘がリスクとなる理由について、まず考えられるのは、便秘のために強くいきむことで、急な血圧上昇を招いてしまうことです。急激な血圧上昇は血管や心臓に大きな負荷となるため、脳卒中や脳梗塞、心不全などの病気の誘因となりえます。高血圧患者の方だけでなく、普段の血圧が正常値の方でもトイレで倒れてしまうといったケースは発生していますので、どなたにとっても便秘の予防・解消が大切であると言えます。
また、いきみ自体は一過性の動作ですが、高齢者の場合はトイレでいきんだ後に血圧の高い状態が持続する場合があることがわかっており、特に注意が必要になります(赤澤寿美ほか「高齢者における日常生活動作中の血圧変動」自律神経 37(3): 431-439 , 2000年)。