「カシミヤ70%」は実は「0%」

糸から生地、衣料品への工程は多岐にわたっており、全て厳密に管理するというのはかなり難しいので定期的にこうした問題が発覚します。

2007年にも大手有名セレクトショップが「カシミヤ0%」の商品を「カシミヤ70%」と表記して販売したことで問題になったことがあります。

糸、生地の工場までガッチリと管理して視察しなければ、工場側でこのような嘘の表記をすることは可能なのです。

誠実な工場を見つけ、そこと契約するしかないのです。アパレル業界にはその努力を惜しまず行ってもらいたいと思います。

裁断クズを使った商品が注目されているが…

私が懸念するのは、裁断クズや、使わなかった生地(残反)を使ったブランドが増えることです。

業界紙では毎日のように小規模な「裁断クズ使用ブランド」「残反使用ブランド」の立ち上げが報じられています。

環境保護への意識が高い消費者もそれを大歓迎していますが、あまり増えすぎても今度は矛盾が生じます。

仮にこの手のブランド数が圧倒的に増えて、「新品ブランド」が極限まで減ったとします。(実際にはそのような事態は起きる可能性が極めて低いのですが)そうなると、裁断クズも残反も生じなくなります。

これらのブランドの存在意義があり、商品の製造を継続できるのは、新品ブランドがあるからこそ、という視点が置き去りになっています。繊維業界を循環させ、維持させるために、当面は新品を作るブランドの存在は必要不可欠なのです。

ならば古着だけを買えばいいのか

では、環境保護のために何ができるのか。リサイクル素材以外のSDGsやサステナブルな解決法はあるのでしょうか。「全員が古着だけを買えば良い」という案を考えてみましょう。

現在のところ、古着の大半は海外からの仕入れになります。海外から仕入れられた古着は汚れたり破れたりしている物が多く、その中から比較的状態がマシな物が選ばれて店舗で販売されています。

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つまり、選ばれなかった物のほとんどはゴミになっています。購入された古着も数年後には破損し廃棄することになるわけですから、古着は根本的な解決には至りません。

さらにいえば、古着の売買が主流となれば、糸を作る合繊メーカーや紡績、生地工場、縫製工場、染色工場などは存続できなくなります。

SDGsやサステナブルに熱心な人は、伝統産業を守ることにも熱心なことが多いのですが、環境保護と産業維持を両立させることは不可能ということになってしまいます。