記憶や学習機能を向上させる作用も報告されている
メディアなどでも取り上げられるようになったオメガ3(n3系)脂肪酸を成分に含む油脂ですが、一般的には図表1で示したようなグリセリンと脂肪酸が結合した構造になっています。
脂肪酸は種類が多く、炭素数が多いものや少ないもの、構造の中に二重結合のあるものやないものなどがあります。n3系とは脂肪酸の構造内の二重結合の位置を示したもの(図表2)です。
一部のn3系脂肪酸はヒトの生体内で合成されず、食物などから摂取しなければならないため「必須脂肪酸」ともいわれます。さまざまな研究を経て、脳神経組織にDHAが多く含まれていることから、DHAは脳の機能にも大きな影響を与えているのではないかと考えられるようになりました。記憶や学習機能を向上させる作用や、神経保護の作用なども報告されています。
また、EPAは血液凝固を防ぐ作用が知られ、両者を適切に摂取することが、脳機能の向上や認知症予防の効果につながると期待されています。ただ、n3系脂肪酸のサプリメントを飲んで効果があるかどうかは、まだよくわかっていないのです。
もともとn3系脂肪酸は化学的に不安定で酸化しやすいので、魚でも干物などに加工している間に変化している可能性があります。ましてやサプリメントなどにして効果が保持されているのかどうかの科学的根拠も十分にはないので、食事で新鮮な魚をたくさんとったほうが良いという考えもあります。
研究が進んでいる「地中海食」
魚の多い食事といえば、私たちがふだん食べている日本食を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
実際、伝統的な日本食の食事成分にはメンタルヘルスを改善する可能性があるという、北海道大学大学院医学研究院からの報告があります。この研究では、「米と味噌汁を中心に、いろいろなものを組み合わせた食事を規則正しく食べることが重要」とされています。日本食は健康に良いとよくいわれます。しかし意外にも日本食がどのように健康をもたらすかについて研究された例は少ないのです。
一方、よく研究されているのは「地中海食」とよばれる、イタリアやスペインなど地中海沿岸における食事です。現地の人々はワインやオリーブオイルなどをたくさん摂り、生活習慣病のリスクが低いことが示されています。地中海食は味付けや食材などがシンプルなのに比べて、日本食は多様で複雑。そのため特定の食材や成分と効果が、なかなか結び付かないのが、日本食研究の難しさです。
さらに脳との関係においてはそもそも脳の機能を調べること自体とても難しく、たとえばうつ病をとっても、まだその根本的な原因すらよくわかっていません。まして、食事との因果関係を直接調べることは困難です。そこで、食事と脳の機能の関係は、特定の人間の集団を対象とした疫学研究によって調べられることが多く、比較的研究が進んでいるのがDHAやEPAです。