大企業がベンチャーを支援し、育てる

日本でも起業家は少しずつ増えている。ビジネススクールの卒業生たちが大企業をスピンアウトして起業するケースが以前よりずっと多くなった。というより大企業に残る価値を見いだせず、見切りをつけて辞める選択をしたという事情もある。

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問題は母集団のボリュームである。日本は起業率が世界最低水準で、ベンチャーの数が圧倒的に少ない。ビジネススクールで経営者の量産を目的に、経営教育に携わってきた人間の目からすれば、日本ではアントレプレナーの量産は極めて難しいと感じる。

したがって日本ではむしろアントレプレナーより、イントラプレナーに期待をかけた方がいいと考えている。ただしここでいうイントラプレナーは、社員を社内起業家にすることを想定しているというより、大企業がベンチャーのインキュベータになることをイメージして使っている。大企業がベンチャーを支援し、育てるのだ。

それはなぜか。起業を成功させるにはたっぷりと経営資源を与えなければならないが、それをほぼ占有しているのが日本では大企業だからである。しかも大企業がその手持ちの資源を余らせている、と考えるからである。

有効活用されず眠っている〈カネ〉や〈技術〉

〈カネ〉は豊富にある。財務省「法人企業統計調査」によれば、日本企業がストックする現預金は320兆円に達する(2021年3月末)。資本金10億円以上の大企業だけとっても79兆円ある。上場企業のネットキャッシュ(現預金+短期保有有価証券-有利子負債-前受金)のランキングを取っても、第1位ソニーGの2.6兆円を筆頭に、500億円以上もつ会社が165社あり、500位の企業でも142億円もっている(※5)

これらのカネは眠っていると言ったら失礼だが、未活用の資金である。本来、カネに限らず経営資源を眠らせているとしたら、それは経営者の怠慢のはずだ。

〈技術〉も有効活用されずに眠っているケースが多い。

例えばベンチャーが開発を進めていくと、たびたび既存企業の特許にぶつかる。そして、その特許がその企業では使われない休眠特許であったとしても、使用許諾が下りないケースが多い。将来ぶつかることがあるかもしれないと考えると意思決定できないのだ。そしていつまでもクズグズと、反応が返ってこない。

(※5)「最新!これが『金持ち企業』トップ500社だ」東洋経済オンラインより