アメリカでユニコーン企業が次々と生まれる理由

日本は空気からして起業家に冷たい。日本にベンチャー・ブームが巻き起こった2000年代前半期には、マスメディアが「ヒルズ族」「IT長者」と異端視し、ブームに乗った起業家を社会的に叩き潰す事件まで起こった(ライブドア事件)。あれから一気に若者の空気が冷え込んでいったのを憶えている人も多いだろう。集団主義の社会ではジェラシーが強く、「他人の成功は苦い」のかもしれない。

アメリカではVCやエンジェルが豊富な資金を提供しているだけでなく(※1)、上場しやすい制度も整っている。例えば赤字を続けながら上場できたのは、アマゾンやテスラだけではない。

上場企業の3割が上場後も赤字を続けている(※2)。それは目先の収益より成長優先を容認しているからである。目先で利益の辻褄合わせを求めるのではなく、「早く大きくなる」ことを歓迎するのだ。だからユニコーン(時価総額10億ドル以上の大型ベンチャー)が多くなる。

(※1)シリコンバレー在住のベンチャー・キャピタリスト校條浩氏によれば、米国のベンチャー投資額は2021年10月までに史上最高の27兆円を超え、日本の6000億円と比べて段違いである(日経産業新聞、2021年11月16日)。むしろ日本のベンチャーは米国やシンガポール等のVCから巨額の資金調達をしている(週刊東洋経済、2022年1月1日号)
(※2)日本経済新聞(2021年11月2日)より

日本では「上場がゴール」で目先の利益にこだわる

対照的に日本では、VCの資金基盤が小さく、出資もみみっちくなりがちである。しかもリスクを恐れる空気が強く、何かと目先にこだわり、成長のための先行投資より利益計上を求める傾向にある。公開価格も低く抑えられ、上場時の調達額が少なくなり、小型のIPOが多くなる。結果として「上場がゴール」状態にもなっている(※3)

加えてライブドア事件以来、取引所も規制を強化していて、上場後の利益計上を求める。またM&Aによる成長投資の調達などには否定的である。だからベンチャーがIPOしても大きくなれず、日本ではユニコーンが生まれにくい要因の一つになっている(※4)

こうしたことを書き連ねていくとキリがない。以前から「日本にシリコンバレーを創ろう!」という掛け声ばかりあっても、実現しないのはこうした数々の事情からである。しかし彼我の差を見て「あれもない。これもない。何もない」と言い続けても仕方がない。制度的な議論は本稿のメインの趣旨でもない。

したがって、今の状況でも日本企業ができることのヒントを、GAFAをベンチマークしながら探していこう。

(※3)こうした事情を日本経済新聞編集委員・川崎健氏は「壊れてしまったマザーズ(市場)」と論評している(同紙、2022年2月10日)
(※4)日本経済新聞(2021年8月9日)より。ちなみに同紙(2022年2月24日)によれば、世界のユニコーンの数は1000社を超え、うち米国には過半近くの488社、中国170社、日本は6社となっている