「欧米の価値観の押し付け」になってはいけない

もっとも、ここまで議論したようにターリバーンの思想的背景・行動様式を理解できたとして、それをそのまま受容すればよいということではない。今も、中学1年生から高校3年生に相当する女子生徒は教育へのアクセスを制限されており、また年齢にかかわらず女性は外出すら制限され、外出時にも厳しいヒジャーブ着用の義務が課されている。

現実的に、欧米諸国が理想と考える状況が、そのまま実現する可能性は低いかもしれない。しかし、有効なチャンネルを通じ、ターリバーンに言動を一致させるよう促し続け、早期に男女平等な教育へのアクセスを実現させることが重要だ。

青木健太『タリバン台頭』(岩波新書)

例えば、ターリバーンがナームースを男性の名誉と直結させて考えるのであれば、女性がヒジャーブを着用することについては現地の人々の様々な意見を取り入れながらその程度を定めて受け入れつつ、一方で女子生徒の登校再開を実現させるといった折衷的な解決が追求される必要がある。

その際、欧米諸国が外部の価値感を一方的に「押し付ける」のではなく、イスラーム諸国を介して働きかけるといったアプローチも有効であろう。ターリバーン幹部も、仮に自分の娘が病気になった場合、診察する女性の医師が必要であり、したがって女子生徒が医科大学まで学ぶ必要があることは理解するはずである。

伝統や慣習(因習)といったもの自体が、微動だにしない固定的なものではなく、時代とともに変化し得るものだ。これらはほんの一例だが、異なる価値体系の衝突に傍観するのではなく、お互いが傾聴の姿勢を保ち、妥協点を見つけ出す営為が今求められている。

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