※本稿は、青木健太『タリバン台頭』(岩波新書)の一部を再編集したものです。
パシュトゥーン人の慣習法「パシュトゥーン・ワリー」
現在の地方の部族統治の実態を見るに当たって、農村社会での意思決定メカニズムがどのようなものであるのか、並びに、アフガニスタンでの最大民族パシュトゥーン人の部族の慣習法がどのようなものであるかに目を向ける必要がある。
農村社会では、公式の下部行政機構とは別に、伝統的な自己統治機構がコミュニティ内での意思決定において依然として重要な役割を果たしており、その統治は成文化されない慣習に基づく部分が大きい。
アフガニスタン政府の下部行政機構には、34から成る州(ワラーヤト)、および、その下部にあり最小行政単位である郡(ウルスワーリー)があり、その郡の下には住民の生活単位である村(カリヤ)がある。こうした下部行政機構の外に、農村社会における自己統治機構であるシューラーが存在する。
シューラーには、村人の中から人柄、家系、経済力などをもとに選出される長老がおり、土地や農業用水の問題、家同士の争いなどが発生した際に、仲介や調停を通じた問題解決の役割を果たしている(林裕『紛争下における地方の自己統治と平和構築』139ページ)。実は、アフガニスタンでは、こうした非公式の自己統治機構が、公式の行政機構よりも住民に寄り添う機能を果たしている。
人々の行動様式を規定する暗黙のルール
こうした農村社会においてはパシュトゥーン人の部族慣習法パシュトゥーン・ワリーが、人々の行動様式を規定する暗黙のルールとして機能し、影響を与えている。パシュトゥーン・ワリーとは、「パシュトゥーン人らしさ」、「パシュトゥーン精神」、あるいは、「パシュトゥーン人の道徳と慣習」とも呼べるもので、成文化こそされていないが人々が日々したがう行動規範となっている。パシュトゥーン・ワリーには、次のようなものが含まれる。
(勝藤猛「パシュトゥン族の道徳と慣習」3ページ)