パシュトゥーン人が無自覚にしたがう5つの規範

これらの中でも、1950年代にカーブル大学に留学しパシュトゥー語を学んだ勝藤猛の「パシュトゥン族の道徳と慣習」における説明にしたがって、特に重要なものについて説明を付したい。なお、部族慣習法は、人々が無自覚にしたがう規範といったもので、部族によって多少の相違もある。

①勇気(トゥーラ)

まず、パシュトゥーン人の男子にとり勇気(トゥーラ)はとても重要な価値である。もともと、語源であるトゥーラは刃渡り1メートルほどの刀を意味しており、パシュトゥーン人にとり重要な武器であった。伝統的に、パシュトゥーン人の男子は、勇武を大切にする。

②避難(ナナワテー)、および客人に対する歓待(メルマスティヤー)

次に、避難(ナナワテー)というものがある。危険が迫る者が庇護を求めて他人の家に入ることを意味しており、家の者は身命を賭しても入ってきたものを保護しなければならない。これと関連して、客に対する歓待(メルマスティヤー)は、山間部に住み、また遊牧の民でもあるパシュトゥーン人にとって重要であり、アフガニスタンに滞在する者は誰でもその寛容な精神に感動する。

③復讐(バダル)

もう一つ重要な概念は、復讐(バダル)である。パシュトゥーン人は、相手方から損害を被った場合、復讐を企て果たすまで諦めることはない。復讐が達成されない場合、その悲願は次の世代に引き継がれ、何世紀経っても消えることはない。

④集会(ジルガ)

パシュトゥーン人が最も重要と考えているものの一つがジルガである。ジルガは、重要問題が起こるたびに随時開かれ、意思決定が行われる。住民は、ジルガを通じて問題解決を図っている。そして、アフガニスタンの統治者によって部族長や指導者が全土から召集される最大の部族大会議であるロヤ・ジルガが、国家的問題に関する重要事項を決める意思決定方式として機能してきた

⑤女性の尊厳(ナームース)

国家や民族についても用いられるが、女性の尊厳(ナームース)は一般には女性に用いる。パシュトゥーン人社会において、他人の妻や娘についてささやかであっても関心を示すことは、女性のナームースを傷つける行為だとされる。例えば、挨拶を交わす際、「奥さんの御機嫌はいかがですか?」と問うことは、相手のナームースを侵害することになり、ひいては男性の名誉を傷つけることになる。

なお、伝統的には、パシュトゥーン人社会では、男子の誕生は祝われるが、女子の誕生は喜ばれなかった。男子が生まれれば、村中で太鼓を叩く音が響き渡り、空に向かって鉄砲が放たれる。しかし、女子が生まれた場合には親たちは祝わず、女子が父親に抱かれることはない。

アフガニスタンの教室
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